Smile Again 〜本当の気持ち〜
試合が始まる。場内のアナウンスと共に、Gの選手が、ベンチを飛び出し、各ポジションに小走りに向かって行く。
1塁側ベンチから、歓声に迎えられて、飛び出して来た松本さんはまず、サインボールをスタンドに投げ込むと、そのまま颯爽とサードのポジションに。
ちょうど、その姿を真正面に見る形になって、俺が見ていると、先輩はおっ?という表情になって、サッと手を上げた。
「松本先輩、塚原くんに気がついたのかな。」
「だろうな。」
相変わらず、やることがスマートで決まっている。俺は先輩に会釈を返した。
「目の良さだよなぁ。」
「えっ?」
「野球選手は目が命だからな。あの人は目の良さと動体視力の良さが抜群だから。」
久しぶりに目の当たりにするあの人のプレー姿は、ますます洗練されて、とてもまだ二十歳にもなってないとは思えない。俺はそのカッコよさに、思わずため息をつく。
「あいつが来てたら、喜んだだろうな。」
「えっ?」
「いや、何でもない。」
俺は慌てて言う。今、何で由夏のことなんか考えてるんだ?俺。長谷川に失礼だよな、ゴメン。
試合はオープン戦だから、そんな緊迫感はないけど、それでも随所に見られるプロらしいプレーに、俺は心踊らせながら、グラウンドに目を走らせる。
「ねぇ。」
そんな俺の様子を見ていた、長谷川が聞いて来た。
「塚原くんも、やっぱりプロを目指してるの?」
「大それた夢かもしれねぇけどな。でも、野球をやっている以上は、あの場所はやっぱり憧れるよ。」
いつか俺も、あの舞台に。身近な先輩が、ああやって活躍している姿は、刺激になるし、いい目標だよ。
「そうだよね。」
長谷川は頷く。
「実はね。」
「うん?」
「こう見えても、私、昔野球やってたんだ。」
「長谷川が?」
「うん。と言っても小学校の頃だけど、近所の野球チームで、男の子に混じってね。」
「へぇ。悪いけど、そうは見えないなぁ。」
「ポジションはピッチャ-兼セカンド。自分で言うのもなんだけど、少なくともお兄ちゃんよりは才能あったと思う。」
グラウンドに目を向けたまま、長谷川は続ける。
「でも、私の周りには、中学生になっても、女子が野球を続けられる環境がなくて。諦めるしかなかった・・・。」
「長谷川・・・。」
「一応、中学の野球部にも入部願は出したんだけど、前例がないって、認めてもらえなかった。」
あの校長と監督じゃ、その対応はさもありなんって、感じだな。
「練習しているお兄ちゃんや塚原くんを見て、羨ましかったし、悔しかった。どこまでやれたかわからないけど、自分が納得出来るまで、やってみたかった。でも結局、私には、それを貫こうという強い気持ちがなかったんだよね。」
「・・・。」
「岩武さんみたいに勝ち気だったらなぁ、私も。」
突然、由夏の名前が出てビックリする俺の顔を、長谷川は見つめる。
「彼女なら、きっと、そんな時も自分の意思を貫けたんじゃないかな。」
「そんなことねぇよ。」
「えっ?」
「あいつは、由夏はそんなに強くねぇよ。一所懸命に、そうありたいって、いつも頑張って見せてるけど、あいつは昔から泣き虫で、弱虫で・・・ちっとも変わってないよ。」
そんなことを言う俺の横顔を、長谷川が寂しそうに、見ていたことには、気付いていなかった。
1塁側ベンチから、歓声に迎えられて、飛び出して来た松本さんはまず、サインボールをスタンドに投げ込むと、そのまま颯爽とサードのポジションに。
ちょうど、その姿を真正面に見る形になって、俺が見ていると、先輩はおっ?という表情になって、サッと手を上げた。
「松本先輩、塚原くんに気がついたのかな。」
「だろうな。」
相変わらず、やることがスマートで決まっている。俺は先輩に会釈を返した。
「目の良さだよなぁ。」
「えっ?」
「野球選手は目が命だからな。あの人は目の良さと動体視力の良さが抜群だから。」
久しぶりに目の当たりにするあの人のプレー姿は、ますます洗練されて、とてもまだ二十歳にもなってないとは思えない。俺はそのカッコよさに、思わずため息をつく。
「あいつが来てたら、喜んだだろうな。」
「えっ?」
「いや、何でもない。」
俺は慌てて言う。今、何で由夏のことなんか考えてるんだ?俺。長谷川に失礼だよな、ゴメン。
試合はオープン戦だから、そんな緊迫感はないけど、それでも随所に見られるプロらしいプレーに、俺は心踊らせながら、グラウンドに目を走らせる。
「ねぇ。」
そんな俺の様子を見ていた、長谷川が聞いて来た。
「塚原くんも、やっぱりプロを目指してるの?」
「大それた夢かもしれねぇけどな。でも、野球をやっている以上は、あの場所はやっぱり憧れるよ。」
いつか俺も、あの舞台に。身近な先輩が、ああやって活躍している姿は、刺激になるし、いい目標だよ。
「そうだよね。」
長谷川は頷く。
「実はね。」
「うん?」
「こう見えても、私、昔野球やってたんだ。」
「長谷川が?」
「うん。と言っても小学校の頃だけど、近所の野球チームで、男の子に混じってね。」
「へぇ。悪いけど、そうは見えないなぁ。」
「ポジションはピッチャ-兼セカンド。自分で言うのもなんだけど、少なくともお兄ちゃんよりは才能あったと思う。」
グラウンドに目を向けたまま、長谷川は続ける。
「でも、私の周りには、中学生になっても、女子が野球を続けられる環境がなくて。諦めるしかなかった・・・。」
「長谷川・・・。」
「一応、中学の野球部にも入部願は出したんだけど、前例がないって、認めてもらえなかった。」
あの校長と監督じゃ、その対応はさもありなんって、感じだな。
「練習しているお兄ちゃんや塚原くんを見て、羨ましかったし、悔しかった。どこまでやれたかわからないけど、自分が納得出来るまで、やってみたかった。でも結局、私には、それを貫こうという強い気持ちがなかったんだよね。」
「・・・。」
「岩武さんみたいに勝ち気だったらなぁ、私も。」
突然、由夏の名前が出てビックリする俺の顔を、長谷川は見つめる。
「彼女なら、きっと、そんな時も自分の意思を貫けたんじゃないかな。」
「そんなことねぇよ。」
「えっ?」
「あいつは、由夏はそんなに強くねぇよ。一所懸命に、そうありたいって、いつも頑張って見せてるけど、あいつは昔から泣き虫で、弱虫で・・・ちっとも変わってないよ。」
そんなことを言う俺の横顔を、長谷川が寂しそうに、見ていたことには、気付いていなかった。