Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「でも、自分でもわからない。どうしてあんな奴を、あんな最低な奴を、私、好きなんだろうな・・・。」


「惚れた弱みだね、由夏。」


そう言って、一瞬笑みを浮かべた加奈は、また表情を引き締めた。


「確かに、一学期までの塚原くんって、最低だったかも。とっつき悪いし、話し方もぶっきらぼうだったし。でも私はちょっと違う塚原くんを知ってたんだ。」


「えっ?」


「覚えてるかな?体育祭で私、クラス対抗リレ-のアンカ-になって、トップでゴ-ルしたじゃん。」


「もちろん。あの時の加奈、カッコよかったよね。」


「あの頃の私こそ、塚原くんのこと言えないくらい、クラスのみんなに壁作ってて、誰とも話せなくて。でもあの時、由夏と悠が声掛けてくれたのも嬉しかったけど、塚原くんも声を掛けてくれたんだ。」


「そうなんだ。」


「『すげぇな、桜井』って、その一言だけだったんだけど、私高校入って初めて、呼び捨てで呼ばれたんだ、その時。自分が悪いんだけど、他人行儀に『桜井さん』としか呼ばれたことなくて。とにかく嬉しかった、塚原くんはたぶん、そんな深い考えはなかったんだろうけどね。でも、この人は、ぶっきらぼうなだけの人じゃないんだなって思った。結局、由夏はそういう本当の塚原くんの姿を誰よりも知ってる。きっと塚原くんとの小さい頃からのいい思い出が、心に刷り込まれてるんだよ。だから多少の行き違いがあっても、塚原くんのことを最終的には、信じてるし、小さい頃の気持ちを潜在的に失わずに来た・・・ってことなんじゃないかな?」


「行き違いは多少、じゃない気もするけど・・・。」


私は思わず苦笑いで、首を捻るけど、加奈は大きく頷いている。


「とにかく、由夏はやっと自分の気持ちに気付いた。というより、やっと向き合った。さぁ、次はどうするか、だよね?」


「うん・・・。」


そうなんだよ、問題はその次だよね。 


「塚原くんは、なんで長谷川さんからコクられたことを、わざわざ由夏に伝えたんだろうね?」


「自慢したかったんじゃないの?俺ってこんなにモテるんだぜって。」


「まさか。」


「わかんないんだよ!」


思わず大声を出してしまって、注目を浴びてしまう私。慌てて周囲に頭を下げると、トーンを下げた。


「あいつの、聡志の気持ちがわかんないんだよ。さすがに嫌われてはいないとは思うよ。でもこれまでのことをずっと考えてみれば、私のことをどう思ってくれてるのか、全然わかんないんだよ。」


「そっか・・・。だったら、聞くしかないよ。」


「加奈・・・。」


必死に訴える私に、加奈は冷静に言う。


「由夏は塚原くんが好き。その気持ちにもう疑う余地がないなら、あとは行動あるのみだよ。長谷川さんは自分の気持ちに素直になって、その思いを塚原くんにぶつけた。今日は悠がいないから、言っちゃうけど、私だってそうだった。あの時点で、先輩が振り向いてくれる可能性があるとは、とても思えなかった。でも私は先輩が本当に好きだったから。」


私から視線を外らすことなく、加奈の口調もだんだん熱を帯びて来る。


「だから私は言った、後悔したくなかったから。悠との友情がダメになっても仕方ないって覚悟して、先輩の気持ちを聞いたんだ。結果は玉砕だったけど、ちゃんと思いを告げて、思いを聞くことが出来たから、今でも先輩と話が出来るし、もちろん由夏のお陰でもあるけど、悠との友情も失わないで済んだ。」


「・・・。」


「今度は由夏の番だよ。結果はもちろんどうなるか、わかんないよ。でも、私達はエスパーじゃない。人の気持ちを読み取ることなんて、絶対に出来ない。だから、自分の思いをぶつけて、相手の思いを聞くしかないんだよ。」


そう言うと、加奈は優しく微笑んだ。
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