Smile  Again  〜本当の気持ち〜
追い出し試合の日になった。毎年この時期に行われているのだが、昨年度は2学期の終業式直前に行われた。3学期に入れば、プロ入りする松本先輩が、ほとんど学校に来られなくなるからだ。


外から見れば、たかが身内の記念試合、のはずなのに、あの時のギャラリーの多さと来たら・・・凄かったなぁ。


それに引き換え、今日は・・・まぁ思ったより居るかな?長谷川も来てくれて、さっきちょっとだけど、言葉を交わした。だけど、あいつの姿はやっぱり見えない・・・。


試合前の練習が終わり、俺達は今日の監督である白鳥さんの周りに集合した。


「さぁ、俺も含めて、明協野球部員としての最後の試合だ。全員で、悔いのない戦いをしよう。」


「はい。よし、行くぞ!」


先輩の檄を受けて、キャプテンである神の掛け声を合図に、俺達はベンチを飛び出した。


ホームベースを挟んで、後輩達と向かい合って、並んだ俺達は、今日の主審である居郷監督の試合開始の言葉を受けて


「よろしくお願いします!」


と大声で挨拶を交わすと、それぞれのポジションに散った。やっぱり練習では味わえない緊張感だ。


マウンド上の沖田も気合い十分。今の俺達にやられるようじゃ、困るぜと思う反面、負けたくない、負けてたまるかというのは、俺達3年全員の思いだ。


「プレーボール!」


監督の声が、グラウンドに響き渡った。


初回、ブランクを感じさせない沖田が、簡単に三者凡退に抑えると、かつてのノーコンぶりがウソのように、自信満々でマウンドに立った剣の快速球が、容赦なく、俺達を打ち取って行く。


この日、このメンバーで現役を続けるのが、お前と神だけだからと言われて、俺はなんと5番バッターに指名された。オイオイと思ったが、案の定、剣の速球に手も足も出ず。


一方、後輩達は、名実ともにチームの主柱である4番仁村にホームランが出る。俺の知る限り、アイツの苦手のコースだったはずなのだが、沖田が完調ではないことを割り引いても、この半年での奴の成長を思い知らされた。


試合はそのまま、1対0のまま、3回を迎えた。俺が守備につく準備をしていると


「ツカ、俺の勝ちだな。」


白鳥さんにそう声を掛けられ、ハッとグラウンドの外に目をやると、そこには水木や桜井、それに長谷川達に声を掛けているあいつの姿が・・・。


(由夏!)


思わず、その姿に視線が、釘付けになっている俺に


「約束は守ってもらうからな。とりあえず、早くポジションにつけよ。」


白鳥さんはそう言うと俺の尻をポンと叩いた。
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