Smile  Again  〜本当の気持ち〜
悩んだ末に結局、学校に向かった私。グラウンドに着くと


「あっ、由夏!」


さっそく気付いてくれた悠が手を降って、迎えてくれる。


「来ちゃった。」


照れ臭そうに言う私に


「塚原くん、5番だよ。」


と悠が教えてくれるけど


「そう。」


と素っ気なく答える私。


「こんにちは。」


そんな私に、長谷川さんが挨拶してくる。なんでこの子、悠達と一緒にいるの、と思うけど、まぁクラスメイトだからと言われれば、確かに、ね。


「こんにちは。」


取り敢えず、挨拶は返したけど、それ以上は特に親しくないから、会話は続かない。なんとなく気まずい空気のまま、私達は4名で試合を見守った。


試合は、やはり現役である1.2年生チ-ムが優勢に進んで行く。先発の沖田くんは明らかにスタミナ切れで5回につかまり、計3失点。後を継いだ尾崎くんも後輩達に圧されている。


彼らだって、去年の夏までは、ハ-ドな練習を続けて来たのに、いったんその状況から離れてしまうと、ブランクを取り戻すのが難しいんだな。


打線も今や、神奈川でも有数のピッチャ-に成長した橘くんの球を、なかなかまともには捉えられない。4番の神くんが孤軍奮闘してるけど、1人ではどうにもならない。本当なら聡志がもっと頑張んなきゃいけないんだけど、ことバッティングに関しては・・・。


かくして私達の声援も空しく、0-5で9回へ。3年生は敗色濃厚のまま、最後の守りを迎えた。


ベンチを出ようとした尾崎くんを、監督である白鳥先輩が呼び止めた。


「尾崎、ご苦労さん。」


「えっ?」


驚く尾崎くん。無理もない、沖田くんは既にベンチに下がっている。ここで尾崎くんが交代したら、いったい誰が投げるというの?先輩は戸惑う尾崎くんの横にいる聡志に視線を向ける。


「ツカ、最終回のピッチャ-はお前だ。」


「せ、先輩・・・。」


慌てる聡志を尻目に、先輩は主審の居郷監督に告げた。


「ピッチャ-尾崎から塚原、キャッチャ-は道原でお願いします。」 


「うむ。」


居郷監督の顔が一瞬、ニヤッとしたように見えた。


「先輩、そんな、無茶です。」


神くんが言うけど


「どうした?監督のコ-ルがあったんだ、もう変更はきかんぞ。さぁ早く守備位置につけ。」


審判の居郷監督が3年生のベンチを促す。


そんな状況を遠くから眺めていた私達は、何が起こっているのか、イマイチわかっていなかったけど、聡志がキャッチャ-マスクやレガ-スを外してマウンドに向かうのを見て


「えっ、どういうこと?」


「塚原くんがピッチャ-?」


悠と加奈は驚いてる。聡志がもともとピッチ
ャ-だって知らない2人がビックリするのは当然だけど、知ってる私も理解できない。だって今の聡志のピッチャ-としての実力は・・・。


「頑張れ、塚原くん!」


そんな中、1人長谷川さんだけが、拍手と声援を送っていた。
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