Smile  Again  〜本当の気持ち〜
私達が、ここに来たのは、思い出巡りの為でもあったけど、悠が先輩とここで待ち合わせをしてたから。


グラウンドでは、私の同級生達が次々と、後輩達の手で胴上げされている。沖田総一郎、神尚人、金谷満、尾崎進、道原秀樹、そしていよいよ・・・


「俺は明協高校が夏の甲子園大会で、初出場初優勝を果たす姿を、当時住んでいた仙台で、まぶしく眺めていました。その後、こっちに帰って来ることが決まった時、どうしても明協で野球がやりたくて、親に無理を聞いてもらいました。そして、その思いは間違っていませんでした。この3年間、俺は野球選手として、そして人間として、得難い経験をさせてもらい、大きく成長させてもらいました。俺はこの3年間を糧にして、これからも歩んで行きたいと思っています。監督、部長、先に卒業された先輩の方々、後輩の皆さん、そして共に卒業する多くの仲間たち、3年間本当にお世話になりました!」


結構いいこと言うじゃん、私は素直にそう思った。そうだよ、君はいつも野球に対して全力だった。いろいろあったけど、私は結局、そんな君の姿が好きだったんだな。今更だけど、気付いたよ。


君のそばにいられないのは、悔しいし、悲しいけど、私はこれからも君を応援してるからね。だって、何度も言うようだけど、私達はこれからも、大切な幼なじみなんだから。


聡志が胴上げされるのを見届けると、私はそっとグラウンドから離れた。


それから少しして、先輩が私達に近づいて来る。もちろん悠を迎えに来る為だ。どうやら私も学校に最後のお別れを言う時が来たようだ。


まだ一緒にいたいと駄々をこねる悠を、先輩に引き渡すと、私は加奈と校門に向かった。


「さ、どうする?」


「さすがにお腹すいたね。スパゲッティでも食べに行こうよ。」


「賛成、2人で改めて卒業祝いだ。」


そんなことを話しながら、歩いていると


「由夏。」


と呼び掛ける声がしたかと思うと、私はいきなり右腕を掴まれた。振り返れば、そこには厳しい顔をした聡志の姿が。


「何すんのよ!」


「話がある。一緒に来てくれ。」


「離して!私、加奈とこれから、お昼食べに行くんだから。だいたい、あんた・・・。」


「いいから、ちょっと来い!」


そう言うと、聡志は有無も言わさず、私を何処かへ引っ張って行こうとする。


「痛い、いい加減にしなさいよ!」


私は懸命に聡志を振り払おうとするけど、悔しいけど、力では敵わない。


「ねぇ、加奈。助けて!」


私は加奈に助けを求めるけど


「じゃ由夏、またね。」


なんて言って、呑気に手を振って来る加奈。この薄情者!


(由夏、よかったね。まぁ覚悟はしてたけど、これで、今日は寂しく1人。でも私だって、大学であなたや悠に負けない恋を絶対見つけて見せるから!)


加奈が、そんなことを思いながら、私達を見送っていたなんて、当然私はわかるはずもなかった。
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