Smile  Again  〜本当の気持ち〜
冷蔵庫の中には、おばさんがたくさんの食材を用意してくれた。足りなかったら、使ってねと、お金もいくばくか、お預かりしてしまった。


「あの子1人じゃ何にも出来ないから。悪いけど、面倒見てやって。それに、あの子は私の料理より、由夏ちゃんが作った方が、よっぽど喜ぶから。」


そんなおばさんの言葉を思い出しながら、私は準備を進める。


「あれから1年経つんだよな。」


「うん。」


居間から聞こえて来た聡志の声に、私は肯く。


「なぁ、由夏。お前、去年なんで親達が、あそこまで旅行に行くことにこだわったか知ってるか?」


「ううん。」


「あの人たち、俺達をくっつけようとしてたんだよ。」


「えぇ、何それ?」


驚いて聞き返してしまう。


「俺達、お互いひとりっ子じゃん。親としては、手放したくないんだよ。だから俺達がくっついてくれれば、余計な心配しなくていい。ところが、小さい頃は、あんなに仲良しだった俺達が、気まずいまんま、なかなか元に戻らない。とうとう業を煮やして、実力行使に出た。」


「実力行使?」


「そう。怖がりのお前が1人で留守番なんか出来るわけないから、当然俺にSOSを出すに違いない。そうすれば、なんだかんだ言って、お前に弱い俺は、結局お前んちへ。そこでは当然2人きり、となれば・・・って。」


「ちょっと、それホントなの?」


「本当だよ。この間、母さんが旅行行くからって、電話してきた時、去年は当てが外れたとか、イケシャ-シャ-と言ってやがった。信じられんねぇよな、そんな親、聞いたことねぇよ。」


さすがに絶句・・・。


「それ自体も呆れるけどさ、今年でも一昨年でもなく、なんであの受験を目の前にしてた去年なんだよ。とにかくワケわからん。」


私達って愛されてるのかな、それとも愛されてないのかな・・・?


「それと、もう1つ。」


「まだ何かあるの?」


聡志がまだプリプリしてる。


「沖田だよ。」


「沖田くんがどうかしたの?」


「アイツさ、俺と長谷川のことをいろいろはやし立ててくれたけど、あれもわざとだったらしい。」


「えっ?」


「この間、久しぶりにみんなで集まったんだ。その時、俺達の話になってさ。アイツが『お前が岩武さんを無事口説けたのは、俺のおかげもあるはずだぞ。感謝しろよ』とか抜かしやがって。」


沖田くん曰く、私達2人が想い合ってるのは、傍から見てると、分かり易いくらい明らかだったらしい。それなのに、なかなか先に進めない私達の為に、お互いを意識せざるを得ないように、仕向けるのが目的だったんだって。


「みんな言いたいこと、言いやがってさ。」


聡志は怒ってるけど、私は居間に戻って言った。


「私達、みんなに気を遣ってもらって、応援してもらってたんだね。」


沖田くんも悠も先輩も加奈もそうだったし、親たちだって、方法に問題は感じるけどさ。今日だって、自分達がただ単に旅行に行きたいだけって言えなくもないけど、まだ学生でお金のない私達に、デ-トの場所を提供してくれたのも間違いない。やっぱり愛されてるんだよ、私達。


「まぁ、そういうことになるのかな・・・。」


聡志も頷いてくれた、ちょっと苦笑い交じりで、ううん本当は照れ笑いだよ、ね。
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