Smile  Again  〜本当の気持ち〜
キャッチャ-ボックスに腰を下ろした俺は、思わず1つ息をついた。


(しかし、エラいことになった・・・。)


この状況で、俺達に場慣れの機会をいう監督の意図は、わからないでもない。しかし、白鳥さんや関口さん相手の出場ならともかく、いきなり沖田と組まされるとは・・・。


だが、性格から考えても、今は、俺以上に沖田が舞い上がってるはずだ。キャッチャ-に転向させられてから、俺が肝に銘じて来た「いかなる時も冷静に」というモット-を、今こそ実践するしかない。


(由夏、今だけでいい。今だけでも、俺だけを見ててくれ。そして、俺に力を貸してくれ。)


そんな虫のいい思いを抱きながら、俺は初球のサインを沖田に出した。


しかし、気が付けば、全ての塁が相手選手で埋まっていた。3連続四球で、あっと言う間に、ノ-アウト満塁。とにかくストライクが入らないのでは、バックを守ってくれている歴戦の先輩達も手の施しようがない。


「監督、このままでは・・・。」


「次郎さんとキャプテンに替えた方が、いいんじゃないですか?」


ベンチでは、堪りかねたみどりさんと白鳥さんが監督に声を掛けてる。


(やはり、さすがに荷が重かったか。)


2人の声に反応せず、じっとグラウンドを見つめる監督の心中も、焦燥の色が濃い。


「由夏・・・。」


「大丈夫、絶対に。」


さっきまでのハイテンションは何処へやら、泣きべそをかいている悠の手を、私は掴む。


(聡志・・・、私の応援なんて、今の君には、何の役に立たないかもしれない。でも、信じてるから!)


今の私は、そう思いを込めることしかできない。


そんな周りの様子を、当然全部わかってたわけじゃないけど、俺は審判に


「タイム。」


と要求すると、マウンドに向かった。
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