Smile  Again  〜本当の気持ち〜
腰を降ろした俺は、本当にど真ん中のストレートのサインを出して、そこにキャッチャーミットを構えた。


俺が本気だとわかった沖田は、ゴクリとツバを飲み込むような仕草をしながら、頷いた。


俺もかつてはピッチャーだったから、よくわかる。今の沖田はもうパニックを起こしてて、何を言っても耳に入らないし、ストライクを取るのに、汲々としてて、かえって手が縮こまって、コントロールが定まらない状況。


そんな状態の奴に内角だ、外角だの要求したって無駄。ど真ん中に、目一杯腕を振って投げて来いって言うしかない。


そして、いざど真ん中に投げようとしても、実際にはナチュラルに変化してしまうものなんだ。一応、そこまでは俺の計算に入ってた。


ところが、俺は沖田の性格をまだ、よく理解してなかった。俺のサインに忠実であろうとした沖田は、手加減して、半速球のような球を投げ込んで来た。打って下さいと言わんばかりのボールという表現がピッタリの球が俺に向かって来る。


(ヤベッ。)


俺は思わず、目を見張った。そして相手バッターのバットは一閃、凄まじい金属音と共に放たれた打球は、3塁線にすっ飛んでった。


(やられた・・・。)


俺が覚悟を決めた次の瞬間、横っ飛びで打球に飛び込む人影が、目に入る。


(えっ?)


サ-ドの松本先輩が、華麗なダイビングキャッチを決めると、そのまま一回転してベ-スにタッチ。あまりにも鮮やかな併殺プレ-。


「ナイスプレ-、サ-ド!」


俺は思わず声を上げ、明協応援席からも大歓声。しかし松本さんは何事もなかったかのように、立ち上がると


「ツーアウトだ、沖田。」


と声を掛けながら、ボ-ルを沖田に返す。


「はい、ありがとうございます。」


受け取って、一礼する沖田に、軽くグラブを上げて応えると、先輩はポジションに戻る。


(こりゃ、たまんねぇな。)


ベンチでは、木本先輩が満面の笑み。きっと由夏もスタンドで、大はしゃぎだろう。とにかく男の俺が見ても、カッコ良すぎるわ。


これで、生色を取り戻した沖田は、次のバッタ-をセンタ-フライに打ち取り、なんとか凌ぎ切った。


俺達はここでお役御免。後は関口さんとファ-ストから戻ったキャプテンのバッテリ-が危なげなく締め、7回コ-ルド勝ち。明協は準々決勝に駒を進めた。
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