Smile  Again  〜本当の気持ち〜
そして迎えた秋季大会だが、予想外の事態が起こった。海外遠征の疲れから、白鳥さんの調子が上がらず、初戦の先発に、沖田が起用されることになったんだ。


「スマン、迷惑を掛けてしまって。ただ、いざとなれば行けるから、後ろのことは気にせずに、思いっきり飛ばしてくれ。」


「わかりました。」


白鳥さんの言葉に頷いて、俺達はグラウンドに飛び出した。


マウンドに立った沖田。俺はあの後、試合に出してもらえなかったが、沖田は1試合甲子園で投げた。大量リードの7回から、どうなることかと思っていたが、村井さんの落ち着いたリードもあって、2イニングを無難に抑えて見せた。


どんな状況であれ、あの甲子園のマウンドを経験したという事実が、沖田をあの時より、ひと回り大きく見せていた。


「いつも言うことは同じだが、お前達2人だけで、戦ってるんじゃない。それを忘れるな。」


「はい。」


「よし、締まっていこう。」


「オー。」


新キャプテン松本さんの激に応えて、俺達は各ポジションに散る。二遊間を守る2人の同期の顔が蒼いのは仕方ない、それに引き換え、キャプテンはもちろん、普段は俺達後輩もくん付けで呼ぶ程優しいファーストの久保創(くぼはじめ)さんも、やっぱり落ち着いていて、頼もしい。


(さぁ、行くぜ。)


俺は気合を入れて、沖田に第1球目のサインを送った。
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