Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「試合が近いから、久しぶりに受けさせてもらおうと思ったのに。」


そうか、大会の合間をぬうように、国体があるんだっけ。国体は3年生にとっては、最後の公式戦。当然、この時は村井さんが先発マスクを被る。


「ワガママな亭主にだいぶ振り回されてるみたいだな。」


「いえ、そんなことは・・・。」


「ハハハ、耐える妻か。今時の夫婦なら、そんなの流行らんし、即離婚だろうが、野球のバッテリーはまだまだ昭和スタイルだなぁ。」


村井さんのとても高校生とは思えない冗談は、笑えないよ。仕方ないじゃん、こっちはなんの実績もまだない下級生なんだから。


「『あいつらは、人類じゃない。投手人という、別の人類だ』って嘆いたキャッチャーがいたらしいが、ピッチャーっていうのは、ワガママな生き物だ。試合の勝敗の多くを背負って、投げてるんだから、ワガママにもなるさ。あまり気にするな。」


「でも、今の俺は、村井さんみたいに、白鳥さんから信頼を得てません。むしろ、足を引っ張ってるだけです。」


「だとしても、俺があいつの球を受けてやれるのは、もう今度の国体だけだ。もし、あいつがお前を毛嫌いしていたとしても、どうにもならんことくらい、わからないほど、白鳥はバカでも子供でもないよ。」


「・・・。」


キャプテンの時は、グラウンドでは厳しい表情ばかりが印象に残ってるが、今の村井さんの表情は柔和だった。


「なぁ、塚原。」


「はい。」


「白鳥は、本当にお前に対して、苛立ってるのかな?」


「えっ?」


「あいつが苛立ってるのは、思い通りの球を投げられない自分に対してのような気がするんだが。」


「村井さん・・・。」


「まぁ、そこらへんのことを確かめるのが、どうやら俺の明協野球部での、最後の役目になりそうだな。」


任せとけ、とでも言うように、村井さんは俺の肩をポンと叩いた。
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