Smile  Again  〜本当の気持ち〜
そして、卒業式の前の最後の週末。久しぶりに岩武家とウチのお食事会が開かれた。


別れを惜しむかのように、話に花を咲かせる親たちに対して、向かい合わせに座らせられた俺と由夏は、目を合わせることもなく、ただ黙々と目の前に出てくる、見たこともない豪華な食事を口に運ぶだけだった。


「もうすぐ会えなくなっちゃうんだから、少しはお話、しなさいよ。」


途中、親からたしなめられて、ようやく由夏が、か細い声で


「向こうでも野球続けるの?」


と聞いて来たけど、俺が


「ああ。」


と一言答えて終わり。何を話せばいいのか、わからないというのが、正直なところだった。


それから数日後、俺の卒業式の翌日、俺達一家は車で、住み慣れた神奈川を後にした。


岩武のおばさんを始めとした近所の人やクラスメイト、野球チ-ムの仲間達が見送りに来てくれたけど、由夏の姿は、その中にはなかった。


見送りの人に、元気よく手を振って、別れを告げた俺の表情は、車が走るにつれて、だんだん沈んだものになって行った。胸の中にしこるつらさ、寂しさの意味に気が付いたのは、仙台に着いて、数日経ってからのことだった。


由夏がいない、そしてたぶん、もう2度と会うことも出来ない。それがどういうことなのか、俺はその事実の深刻さにようやく気付かされた。


あの最後の食事会で、由夏と話すこと、話さなければならなかったことは、実はたくさんあったんだ。その最後のチャンスを俺は踏みにじった。


凄まじい量の後悔が、俺を襲ってきた。でも、もうどうしようもない。小学校を卒業したばかりの、12歳の俺にとって、仙台-神奈川間は、あまりに遠かったから・・・。
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