Smile  Again  〜本当の気持ち〜
見知らぬ土地での、新たな生活が始まった。中学に入学した俺は、ためらうことなく、野球部の門を叩いた。野球をやらないという選択肢は、俺にはなかった。


だが、その野球部は、サッカー部に押され、部員集めに苦戦していたようで、俺達6名の1年生部員は、随分歓迎された。


顧問兼任の監督は、やる気がなく、多忙を理由に、ほとんど練習にも顔を出さないような有様で、俺達は面食らったが、それでも5名の3年生がチ-ムをまとめて、俺達は練習に励む日々だった。


だが、夏が過ぎ、3年生達が引退してしまうと、雲行きが怪しくなった。8名いる2年生は、もともとあまりやる気を感じなかった連中だったが、3年生が抜けると、もう怖いものはないと言わんばかりに、羽目を外し始めた。


俺達1年に理不尽な練習メニュ-や雑用を押し付け、自分達は、練習ともつかない内容の運動をこなすと、あとはダラダラと時間を過ごしてるだけ。


気が付けば、6人いたはずの俺達1年は、3人に減っていた。部員数11ということはスタメン9人プラス控え2人、もはや試合のできるギリギリの状況に陥っていた。


そんなある日、キャプテンでエ-スの塩崎(しおざき)が、俺達を集めた。


「さっき、岡田(おかだ)から話があって。」


岡田というのは、このチ-ムの監督の名前。


「来週から始まる地区大会のメンバ-を決めるように、とのことだった。」


はぁ?試合?俺は内心呆れた。練習もまともにしてないくせに試合なんて、出来るわけないだろうと思った。


だが、塩崎は得意そうに、ゴソゴソと紙を取り出すと、メンバ-を読み上げ始めた。2年生8名の名が次々と呼ばれ、それだけじゃ足りないから、最後に1年の丹後(たんご)がメンバ-に入り、俺ともう1人の1年の望月(もちづき)が控え。


「以上。」


読み上げたあと、塩崎は、チラリと意地悪げな視線を、俺に送って来た。
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