Smile  Again  〜本当の気持ち〜
初めて体験する東北の冬は、想像以上の寒さだった。その日も底冷えのするような寒さ、俺はグラウンドに早めに入ると、念入りにウォ-ミングアップを始めた。すると


「おい、誰が俺達を差し置いて、アップなんかしていいと言った?」


振り返ると、2年生数人を引き連れた塩崎が、こちらをにらんでいる。


「あんた達より先に来て、1人でアップしてたんだ。文句を言われる筋合いなんて、ないと思いますけど。」


つっけんどんに答える俺に、塩崎は怒りを露わにする。


「お前、誰に向かって、そんな口、利いてるんだ?」


「キャプテンに失礼だろ。」


「いつも、自分達より早く来て、グラウンド整備しとけって言ってるのは、そっちでしょうが。それが終わって、1人で何しようと、俺の勝手だ。それが気に食わないなら、もっと自分達が早く来ればいいでしょ。」


3時半を過ぎた時計を横目で見ながら、俺は言う。この野郎、とばかりに気色ばむ周囲を尻目に、塩崎は


「なるほど。じゃ早速練習にかかるか。まずはバッティングだ、お前バッピ-やれ、アップは済んでるんだろう?おい、用意しろ。」


ニヤリと笑いながら、周囲に命じる。


「おい、キャプテンなんか企んでるぞ、気を付けろ。」


この部の中で、俺の唯一の味方と言える望月が声を掛けて来る。


「わかってる。」


とは答えたが、正直塩崎が何を考えてるのかわからず、薄気味悪さを感じていた。


準備が整い、俺がマウンドに立つと、何やら塩崎に耳打ちされた2年が薄ら笑いを浮かべて、バッタ-ボックスに入った。


(何考えてるのか知らないが、お前なんかのバットに、俺のボ-ル、かすらせもしねぇよ。)


俺は振りかぶると、初球からMAXのボ-ルを投げ込んだ。バッタ-は息を呑んで見送るばかり。


「バカ、振らなきゃ何も起こらねぇじゃないか。ドンドン振ってけ。」


珍しくまともなこと言うじゃないかと思ったが、構わず俺は投げ込む。1人目も2人目の打者も、全く相手にならない。


「次は俺が行く。」


いきり立った表情で、塩崎がバッタボックスに入って来た。
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