Smile  Again  〜本当の気持ち〜
後にわかったことだが、この時塩崎は、俺にピッチャ-ライナ-をぶち当てて、ケガをさせるように指示していたらしい。


そんなことは知る由もない俺は、塩崎がボックスに入っても、あんたに何が出来ると高を括っていた。事実、初球は全く振り遅れの空振り。


「気を付けろ」、望月の警告なんて、もう頭からきれいに消えていた。


2球目、自信満々に投げ込んだ俺の球に塩崎は空振り・・・と思った次の瞬間、俺は焦った。塩崎の手から「放たれた」バットが俺目掛けて、一直線に飛んできたんだから。


「ウワッ!」


寸でのところで、そのバットを避けた俺に向かって


「ワリィワリィ、手滑っちまった。」


とニヤニヤ笑いながら、塩崎は言う。故意だったのは明らかだった。


(この野郎。)


俺は血が逆流する程の怒りを覚えた。そして次の瞬間、俺は決心した。


(そっちがその気なら、こっちにも覚悟がある。)


顔を真っ赤にして、俺は次の球を投げた。


「塚原、それはダメだ!」


望月の絶叫が響く、そして次の瞬間、俺の手を離れた球は、塩崎の頭部を直撃していた。ボールは高く跳ね、塩崎は倒れこんだ。


「キャプテン!」


他の連中が塩崎に駆け寄るのを、俺はやや呆然として眺めていた。俺が投げ込んだのは、いわゆるビンボ-ル、つまり俺は奴の頭を目掛けて、ボ-ルを投げ込んだんだ。投手にとっては、絶対に許されない投球。1つ間違えれば、生命に関わる反則行為だった。


いや、そんなことは俺だってわかってる。俺の計算では、ギリギリのところで頭には当たらないはずだったんだ。だが、今度こそ俺にバットをぶち当てる気マンマンだった奴が、俺の予想以上に踏み込んで来ていたのが、誤算だった。


「てめぇ!」


だが、塩崎は立ち上がると、鬼の形相で、俺に向かって突進してきた。中学野球の俺達が使っていたのが、高校野球やプロで使う硬式ボ-ルではなく、軟式ボ-ルだったから、惨事は免れたからだ。しかし、俺が許されない投球をしてしまったことに、変わりはない。


塩崎に続いて、他の連中も襲い掛かってくる。それに対して、俺をかばおうとしてくれたのは、望月1人。それでも、俺達が袋叩きにならなかったのは、横で練習していたサッカ-部の連中が、騒ぎに気付いて、慌てて割って入ってくれたからだ。


「塚原・・・。」


呼びかけてくれた望月の横で、俺は立ち尽くしたままだった。
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