Smile  Again  〜本当の気持ち〜
春の大会の優勝で、野球部のギャラリーはますます増加。ウチの高校だけじゃなく、他校からもやってくるから、もう凄い状況。


だけど、ギャラリーが増えた理由は他にもある。


「ほら見て、あの子だよ。」


私が指差す方向にいるのは、1人の新入生。


仁村司(にむらつかさ)くん。中学時代から、その卓越した野球センスで注目を浴びてた選手。何しろ、我が校が初めてスカウトしたと言われるスポーツ選手。」


ウチの高校は、今までスポーツ特待生のような生徒をとることはしてなかったんだけど、野球部のこの快進撃と、その原動力となった松本先輩達がいよいよ最高学年になったことから、ポスト松本を担う選手の獲得に乗り出した、その第1号と言われている。


「ポジションはサード。」


「じゃ、松本先輩のライバルじゃん。」


悠は心配そうに言うけど


「まさか、松本先輩を舐めないで。1年生なんて先輩の相手になるわけないでしょ。でも先輩の後に明協野球部を背負って立つ存在として、期待されているってこと。」


「なるほどね・・・。」


私の勢いに呑まれたように、悠は肯く。


「でも、ご覧のように結構イケメンで、可愛いから、ファンを引き連れて入学して来た。だから、余計賑やかになったのよ。」


「そっか・・・。それにしても由夏は、相変わらず情報通だね。」


「いえいえ、そんなことは。」


と謙遜しながら、実は結構内心得意げな私。でも実は、この仁村くんのことは、私は、前から知ってたんだ。彼はお父さんがコ-チをしていた小学生チ-ムと何度か対戦した相手チ-ムにいた。私達とは学校も違ってたし、向こうは私の事なんか当然、気付いてないだろうけど。


「ありゃ、将来いい選手になるんじゃないか。」


ってお父さんよく言ってた。そんなこと、お父さんにわかるの?って私は当時、半信半疑だったけど、その後の彼の活躍は、お父さんの眼力も満更ではなかったことを示している。でもまさか、高校の後輩になるとはな・・・。


「ねぇ、由夏。」


「うん?」


「先輩、今日も見えないね?」


そこに悠の心配そうな声が聞こえて来る。悠の言う「先輩」はもちろん白鳥先輩のこと。


「ブルペンにいるんじゃない?」


「ううん、沖田くんしかいないよ。」


悠に言われて、私もブルペンに視線を送るけど、確かに沖田くんと聡志の姿しか見えない。


「昨日も一昨日も練習に居なかったよ。なんかあったのかな・・・?」


心配そうに悠は聞くけど、さしもの私のアンテナにも、白鳥先輩の異変はキャッチされていなかった。
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