Smile  Again  〜本当の気持ち〜
「実は、突然呼び止めてさせてもらったのは、懐かしかったのもあるんですけど、塚原先輩のことを聞きたかったんです。」


「えっ?」


「明協に入ることが決まって、僕は塚原先輩と再会出来るのを楽しみにしてたんです。僕にとって塚原さんは憧れの存在でしたから。」


そうなんだ・・・。


「敵でしたけど、塚原さんはいいピッチャ-でした。かっこよかったです。試合終わると、『お前、いいスイングしてるな。ホ-ムラン打たれるかと思ったぜ。』なんて、声掛けてくれたりして。それが・・・。」


そこで仁村くんは、ちょっと言葉を切った。


「入部して、すぐに先輩に挨拶に行ったんです。でも先輩、なんかすっかり変わっちゃってて・・・昔の話をするのも凄く嫌そうな感じで・・・。驚きました、正直。」


「・・・。」


「キャッチャ-に転向したことは、知ってましたけど、それも僕にはショックでした。塚原さんに何かあったのか・・・岩武さんなら知ってるんじゃないかと思って・・・。」


やっぱり昔の聡志を知ってる人にとって、今の聡志の姿はやっぱりショックなんだよ。でも・・・。


「ごめんね。私、さ・・・つ、塚原くんとはそんなに親しくないから・・・。だから何もわからないんだ・・・。」


「そうなんですか?小学生の時もそうだったし、今も練習見に来てるから・・・。」


「私、野球好きだから・・・。」


それは嘘じゃない、何も知らないのも。でも親しくないなんて・・・生まれて初めてあいつのこと、名字で呼んで、すごく悲しくなって、私何してるんだろ・・・。


「そうですか・・・。」


仁村くんが、ガッカリしたようにつぶやいた時


「司!」


と彼を呼ぶ声がする。


「真弓。」


仁村くんが笑顔を返すと、その女の子はパタパタと近寄って来た。


「どうした?」


「うん、前にも話した岩武先輩。偶然見かけたから、挨拶してたんだ。」


「そっか。私のこと置いて、勝手に帰ったのかと思った。」


「ゴメン。あっ白石真弓(しらいしまゆみ)、僕とは腐れ縁というか・・・まぁ幼なじみって奴です。」


「白石です。こんにちは、岩武先輩。」


そう言うとペコリと頭を下げる白石さんに、私も慌てて頭を下げる。


「なんか時間取らせてしまって、すいませんでした。じゃ、これで失礼します。」


仁村くんは、そう言うと白石さんと歩き出して行った。


私は白石さんのことも覚えてる。試合の時、仁村くんに一所懸命に声援を送ってた。あの子が、あんなに大きくなって、高校生なんだ・・・って、1つしか年、違わないんだけど。


仲良さそうに、並んで帰って行く2人の後ろ姿を、私はしばらく眺めていた。うらやましくて・・・そして寂しかった。
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