Smile  Again  〜本当の気持ち〜
こうして、俺は由夏の家にいつ以来かと思うくらい、久しぶりに上がりこんだ。


小学校3年生の途中までは、まるでもう1つの自分の家のように、何のためらいも疑問もなく出入りしていた、この家は、当時と多少古さを帯びた以外は、ほとんど変わりがなく、俺は懐かしい思いでいっぱいになった。


でも俺達は、当然あの時の俺達じゃない。今、キッチンで由夏が俺の為に料理をしてくれてる。あの頃の由夏が台所に立って、おばさんの手伝いしてるのも、見た記憶がない。


それにしても、好きな女が2人きりの空間で自分の為に料理してくれてる。男にとって、こんなたまらない、幸せなシチュエーションがあるか?


なのに今、俺がどんな気持ちでこの食卓に座ってるか、由夏はまるっきりわかってない。俺が今、どれだけの自制心と忍耐力を使ってるか・・・。


もうあいつは、昔の泣き虫由夏じゃないし、俺が妙な気を起こしたって、簡単に言いなりになるような奴じゃないのもわかってるが、でも俺だって一応男だぜ。本気出したら、あいつを組み敷くくらい、難しい話じゃねぇよ。


でもあいつと来たら、そんな警戒心はまるでゼロ。要は俺を男として、全く見てねぇっていうこと。舐められたもんだが、ここまで意識されてないと、もう笑うしかねぇよな。


「出来たよ。ゴメン、ちょっと運ぶの手伝って。」


人の気も知らないで、呑気に顔を出す由夏。あ〜あ、エプロン姿もたまんねぇ。


俺がキッチンに入ると、なんか大皿に大量の唐揚げが。


「おいおい、何人で食べる気なんだよ。」


呆れる俺に


「だって山ほど作れって言ったの聡志じゃん。」


「確かに言ったけど、それにしたって、ものには限度ってもんが・・・。」


「大丈夫だよ、食べ盛りでしょ。せっかくだから、お腹いっぱい食べて。余ったら持って帰ってくれてもいいし。」


あのなぁ〜、と更にモノを言いたそうな俺を尻目に


「聡志が美味しかったって言ってくれたの、嬉しかったんだもん。さ、食べよ。」


そう言って、俺に笑顔を向けると、由夏は食卓に向かって行く。


(こいつはやっぱり悪魔だ。)


この世に無自覚ほど恐ろしく、罪深いものはないとつくづく思う。俺はまた、ため息をつきながら、由夏のあとについて食卓に向かった。
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