Smile  Again  〜本当の気持ち〜
マウンドに集まっていると、ドッとスタンドが沸き返った。何事かと思って見た瞬間、俺は自分の目を疑った。白鳥さんが、道原を伴ってブルペンに向かっているのだ。


「キャプテン。」


俺は思わず松本さんを見る。


「うむ・・・。」


キャプテンも言葉を失ってる。


「テッチャン、今日投げられないんじゃないの?」


久保さんの言葉は、ここにいる全員の思いだ。ベンチを見ると腕組みをして仁王立ちしている監督の横で、みどりさんが懸命に何か言っている。その内容が、俺には容易に想像出来た。


「尾崎、死んでも抑えろ。白鳥さんを登板させるようなことがあったら、俺達の恥だ。思いっ切り腕を振って来い。」


「わかった。」


思わず口走った俺の檄に、尾崎は頷く。


「よし、しまって行くぞ!」


「おぅ!」


キャプテンの気合に応えて、俺達はポジションに散る。


だが、残念ながら、物事は気合だけでは解決しないことの方が多い。尾崎が次打者に投げ込んだ渾身の1球は、見事打ち返され、外野の間を抜けて行った。俺は躍り上がるようにホームインして来る敵ランナーを、ただ見守るしかなかった。


逆転、された。ベンチから主審に向かって伝令が出る。


(まさか。)


そして、ウチの応援団の大声援に送られて、白鳥さんがマウンドに上がる。


「白鳥。」


マウンドで待ち構えていたキャプテンが、声をかける。


「大丈夫、投げられるから出て来たんだ。ここは任せろ、お前達は逆転することだけを考えててくれ。」


「すまん、頼むぞ。」


キャプテンは白鳥さんの肩を1つ叩くと、ポジションに戻る。


「ツカ、行くぞ。」


「はい。」


白鳥さんの登場で、俺も正直、心の落ち着きを感じた。これがエースの存在感と言うことなんだろう。


(これでいいのか・・・。)


だけど、俺の心の中の疑問は抑えられない。
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