Smile  Again  〜本当の気持ち〜
試合の結末を言えば、俺達の逆転勝ち。白鳥さんが後続をピシャリと抑え、キャプテンの逆転ホームランで、相手に引導を渡した。


勝利に湧くベンチやスタンドを、しかし俺は一歩引いた思いで眺めて来た。


俺は気づいてしまった、本来ならもっと早く気付かなければ、ならなかったことに・・・。


宿舎に戻り、食事等も済んで、就寝前の自由時間。各自が思い思いに過ごす中、俺は白鳥さんに声を掛けた。


「どうしたんだ?こんな所へ。」


周りに人がいない場所に連れて来られて、苦笑いの先輩を俺はまっすぐに見た。


「俺はキャッチャー、女房役失格ですね。」


「何言い出すんだ、急に。」


戸惑う先輩に


「こんな大事なことに気がつかなかったんですから。」


「・・・。」


「いつからだったんですか?まさか春の時点でもう悪かったんですか?医者には行ってるって言ってたけど・・・。」


その瞬間、白鳥さんは視線を逸らす。


「先輩!」


「なんで、わかった?」


声を励ます俺に、先輩は視線をこちらに向けずに言う。


「みどりさんです。」


「みどり?」


ここで先輩は、訝しげに俺を見た。


「先輩達と病院に行ったみどり先輩は、一緒に戻って来なかった。薬を頼んだって、言ってたけど、キャプテンが心配してたように、この辺は結構、道が暗いし、遠征先だから土地勘もあんまりない。女子1人のお遣いは普通なら避けますよ。」


「・・・。」


「おかしいと思ったのが、キッカケでした。診察結果を聞いてしまったみどり先輩は、泣きはらして、俺達の前にすぐには姿を見せられなかった。もし、そんなみどりさんの姿を見れば、俺達はイヤでも、ただ事ではないと気付かざるを得ないから。」


俺の目には、いつの間にか涙がにじんでいた。


「そして今日の試合で確信を持ちました。先輩が無理をして投げてると。」


「・・・。」


「なんで言ってくれなかったんですか、って言いたいけど、その前に気付けって話ですよね。村井さんなら絶対に気付いてた。」


「スマン。心配かけたくなかったんだ。」


先輩は言った。
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