Smile  Again  〜本当の気持ち〜
戦いは続いた、監督もキャプテンも決断しないまま。なら白鳥さんを出さないようにするしかない、沖田と尾崎が抑え、打線が点を一杯取りゃいいんだ。


だが、全国大会はやっぱり甘くない。沖田も尾崎も後1歩というところで、お約束のように崩れる。俺のリードも悪いのかもしれないが、壁が破れない。


当たり前だが、白鳥さんの症状は日に日に悪化している。試合の前日には、相当強い痛み止めを打ってるようだ。そんなことを続けていれば、野球どころか、日常生活にも支障をきたすようになりかねない。


この日、明協はベスト4進出を決め、これで昨年の大会の成績を超えた。校歌斉唱を終え、応援席に向かって、頭を下げた俺は、何も知らずに沸き返る人々に正直、腹が立っていた。


そして宿舎に戻るバスの中で、事件が起こった。


「徹、もういい加減にしろ!」


突如上がった怒声。驚いて見ると、普段はク-ルな大宮先輩が、白鳥先輩につかみかからんばかりに、詰め寄っている。


「ヤスヤン、よせ!」


慌てて隣の久保先輩が割って入るが、大宮先輩の興奮は収まらない。


「お前、俺の目が節穴だと思ってるのか?お前の本当の球を知ってるのは、村井さんや塚原だけじゃない。俺だって3年間、真後ろのセンタ-から、お前のボ-ルを見続けて来たんだ。」


「大宮、お前、何言ってるんだ?」


不思議そうに尋ねる佐藤先輩に


「副キャプテンのくせに、なにも知らないのかよ?こいつは、白鳥は肩痛めてるぜ。」


「何だって!」


「県大会の頃から、気にはなってたんだ。徹独特の球の伸びがないなって。でも今日の試合は酷かった。あんなの白鳥徹のボ-ルじゃない。そんなの徹、お前自身が一番わかってるだろう。」


重い空気が、車中を包む。


「白鳥、本当なのか。」


「マッチャンも知らなかったの?」


佐藤先輩と久保先輩が相次いで言う。


「いや、知ってた。」


「そんな重要なことを何で、俺達に・・・。」


「みどりは知ってたのか?」


「うん、この間、病院に一緒に行った時に・・・。」


「それで彼氏にだけ、伝えたのかよ!」


「ヒロチャン、そんな言い方止めろよ。」


いつもは本当に仲のいい3年生6人衆の険悪な雰囲気に、俺達は、言葉を差し挟むことも出来ずに、ただ息を飲んで見守るだけ。


「もうその辺にしろ、バスの中で、騒ぐな。」


「ですが・・・。」


「宿舎に戻ったらミーティングを開く。いいな。」


たまりかねて、監督がとりあえず、その場を抑えた。
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