Smile  Again  〜本当の気持ち〜
新チームがスタートして、早いもので2週間が過ぎた。去年の村井さん達と同様に、国体出場を残している3年生はグラウンドに姿を見せてはいるが、既にチームからは離れた独自の動き。


その中に白鳥さんの姿はない。俺達が帰って来る時も、1人病院のベッドの上だった先輩は、それから数日後に、確かに戻って来たらしいのだが、その翌日、忽然と姿を消したという。家族には置き手紙、3年生達には「しばらく消えるが心配しないでくれ」とのメールが1行入ってただけだったそうだ。


更に久保さんとみどりさんは、受験勉強を理由に退部届を出し、もうグラウンドに姿を見せなくなっていた。足掛け3年に渡る、明協野球部の栄光を築き上げて来た6人の先輩達の歩みは、こうしてバラバラになり始めていた。


それだけではなく、居郷監督も山上顧問も辞表を提出した。白鳥先輩の無茶を制止することなく、最悪の事態を招いたことに対する責任を取るとの触れ込みだったが、校長やOB会からの強い慰留を受け、結局辞表を2人とも撤回した。


ウチの部の伝統で、新キャプテン以下の役職者は3年生の推薦を監督、顧問が承認する形で決定する。


白鳥さん達を含めた3年生の総意で新キャプテンは、ショートからレフト、更には久保さんの引退に伴ってファーストとポジションを転々している苦労人の神。副キャプテンはセカンドの金谷、そしてみどりさんの後のチーフマネージャーには、村井紀子が指名された。


こうして動き出した新体制。しかし、俺は正直白けていた。実は副キャプテンに先輩達から推薦されたのは俺、塚原聡志だった。だが、俺はそれを拒否した。自信がない、そう言い張って、辞退したんだが、本当のことを言えば、やってられるかという思いだったんだ。


俺は白鳥さんを投げさせることに反対だった、理解できなかった。もっと早く気付けなかったのは、俺の失敗だが、それでも、わかってからは、投げさせてはいけない、投げちゃいけないって訴え続けたつもりだ。


だけど、その言葉に、誰も耳を傾けてはくれなかった。結果、白鳥さんは再起不能の重傷を右肩に負った。


白鳥さんは壊れても悔いはないって、あれ程タンカ切ってたのに、実際そうなったら、ショックでいなくなっちゃうなんて、何なんだよ。


監督もゴーさんも、責任を感じるって辞表出したくせに、慰留されたらホイホイ引っ込めるって、ポーズだけかよ。結局、自分達の栄光の為に、あんだけの才能を潰したんじゃないか。


久保さんもみどりさんも、受験勉強だか何だか知らないけど、白鳥さんの無念の思いを知りながら、よく部活を全うしないで放り出せるよな!


俺は1人、憤っていた。
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