Smile  Again  〜本当の気持ち〜
グラウンドの中も外も活気がない。去年の今頃もそうだったように、松本さんは現在海外遠征中。白鳥さんもいない。彼らの追っかけのような女子達は姿を消し、グラウンドの外が活気がないのは仕方がない。


問題は、新チームがスタートし、新たな活気に満ち溢れてなきゃならないグラウンドまでが、まるで祭りの終わった後のような、うら寂しく、静かな雰囲気に包まれてしまっていることだ。


思えば、この3年間、明協高校は高校野球界に君臨して来た。そして、その中心にいたのが、松本、白鳥のツートップを始めとした現3年生なのは、疑う余地もない。


その彼らがチームを去る。宴は終わった、そんな雰囲気が漂ってしまっている。


そんなムードは、吹き飛ばさなくちゃならない。それが俺達のやるべきことのはず。


新キャプテンの神も副キャプテンの金谷も懸命にチームを鼓舞しようとしている。監督だって、大声でみんなを叱咤している。だけど、何かが違う。


そして今、俺はブルペンにいる。1人のピッチャーの球を受ける為に。橘剣という1年生の左ピッチャー、とにかく凄まじいスピードボールを投げる。


沖田、尾崎なんか目じゃない、白鳥さんにも迫る大エースになれるかもしれない逸材だ。ただし、ストライクが入れば、だが・・・。


イップスでピッチャーを諦めた俺が、呆れるほどの滅茶苦茶なコントロール。こいつのピッチング練習じゃなくて、俺の守備練習かと思うくらいに、俺は上下左右に身体を動かさないと、ボールを捕球出来ない。もちろん、それでも捕れない球多数。


確かに、コイツがモノになれば、仁村と2人で新しいツートップになれる可能性もあるかもしれない。だけど、それが現実性のある話とは、とても思えない。


ただでさえ、チームから心が離れつつあるところへ、こんな実りのなさそうな、練習に付き合わされて、俺は心底うんざりしていた。
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