人魚姫
次の冬が来たら陸の王子を射止められなかったあたしは死んでしまう。
だから後悔したくないんだ。
茶々丸が大冴の胸を蹴って琉海の方に飛んできた。
「おいっ、ちょっ茶々丸」
琉海の顔を舐め回す茶々丸をしみじみとした顔をして大冴は眺める。
「茶々丸はここまで律に懐いてなかったもんな、茶々丸は律よりおまえの方が好きなんだな」
大冴は琉海から茶々丸を引き剥がした。
「大冴も茶々丸と同じようになるかもよ。飼い主は飼い犬に似るって言うじゃない」
「ばーか、逆だ、飼い犬は飼い主に似るだ。それに茶々丸がおまえを好きなのは多分おまえが魚臭いからだ」
大冴はじゃあな、歩き出そうとする。
「ねぇ大冴、本当に行っちゃうの?今日は何しに来たの?」
「おまえがそういうつもりなら、もうここには来ない。何度も言うけど俺には律しかいない。真人の代わりに俺がずっと律を愛し続けてやるんだ」
「でももしかしたら天国で彼女と大冴のお兄さんは結ばれてるかもよ、今頃2人でラブラブしてるかもよ 」
大冴は琉海を振り返ることなくそのまま行ってしまった。
そうだよ……、琉海は呟いた。
「大冴のお兄さん天国で心変わりしてるかもよ」
琉海は空を仰ぐ。
水色の空の向こうに幸せそうに寄りそう恋人たちの姿を想像した。
琉海は姉たちには糸の話はしなかった。
陸の王子候補の2人が琉海と同じ色の糸を持っていなかったと知るとがっかりするだろうし、きっと仕切り直して新たに王子を探せと言ってくるはずだ。
大冴から離れたくなかった。
大冴は琉海が告白した日から姿を見せなくなってしまった。
未來も同じだった。
大冴の家に何度も足を運んだが留守だった。
スマホも何も持っていない琉海は大冴に連絡する術が他になかった。
そのうち琉海の店がテレビで紹介されると、客がいちだんと増えた。