人魚姫
大手百貨店から自分のところで店を出さないかと話をもちかけられたが迷ったあげく琉海は断った。
商売は面白かったが夢中になっているとあっという間に時間が経ってしまいそうだった。
その日も日が落ちる前にアクセサリーは完売した。
琉海の店にやってくる客たちはみな神妙な面持ちでアクセサリーを選んでいく。
恋する相手との恋愛成就のために真剣なのだ。
ひとりひとりの胸の中にそれぞれひとりだけの想う人がいる。
琉海はいつも心の中で「その恋愛がうまくいきますように」と祈った。
琉海がアクセサリーの店で大忙しなのを見てむうちゃんは学生のバイトを雇った。
「夜はゆっくり休みな」
ここ最近は毎日のように姉たちからアクセサリーを仕入れなくてはいけなかったので正直琉海は少し助かった。
姉たちから頼まれた物を買いに行く時間も必要だった。
姉たちは妹を助けるのは当然だと、アクセサリーの報酬を要求したりしなかった。
が、それではあんまりだと琉海が顔の表面をころころ転がす美顔器を渡すとそれが姉たちに大好評で、それ以来美容グッツを姉たちから頼まれるようになった。
明日売る分のアクセサリーの準備も終わり、姉から頼まれた買い物も済ませると琉海は他にすることがなくなった。
むうちゃんのとこで焼肉をまたお腹いっぱい食べようかと思ったが、どうも今朝からお腹の調子が良くない。
最近忙しさにかまけて薬をちゃんと飲んでいなかったせいだと漢方の入った袋を手に取るとあと1日分しか残っていない。
「やばっ」
琉海は部屋中の窓を開け、薬を煮出して飲むとお腹をさすりながら横になった。
これ以上ひどくなる前に明日は店を閉めて大阪に行って来よう。
テレビをつけるとお笑い芸人が海に潜って銛(もり)で魚を突いていた。
『とったぞー』
鼻水を垂らしながら水面から顔を出す。
そしてまたもっと大きな獲物を探して潜る。
テレビ画面に映し出される海の中を琉海は食い入るようにして見た。