人魚姫
泳ぎたいな……。
あたしも思いっきり海の中を泳ぎたい。
虹色の尾を一振り。
水を掻き分けて前に進む。
キラキラ光る魚の群。
人懐っこいイルカたち。
夜、暗い海のどこかで聞こえるクジラの鳴き声。
琉海は目を閉じた。
ああ、そうだ。
あたしはもう人魚には戻れないんだった。
陸の王子の検討が全くつかなくなってしまった以上、王子の心を射止めるかそれとも殺すかなんていう選択肢はないんだった。
でもそれでもいい。
大冴の近くにいられればそれでいい。
今から見ず知らずの人間の男と恋に墜ちるなんて想像もできないし、人殺しなんてこうやって人間界に馴染んでしまってから考えると、ぞっとする。
大冴に会いたい。
最後に会ってからもうどれくらい経つだろう。
今まで大冴と会えることが当たり前だと思ってた。
会ってる時よりも会えない今の方が何倍も好きって気持ちが大きくなる。
大冴に会いたいよ、会いたいよ、会いたいよ。
やっぱり告白の仕方が悪かったんだろうか。
恋が叶う人魚のアクセサリーだなんて、 売ってる当の本人がこんなんじゃ嘘っぱちもいいとこだ。
そうだ、大阪から戻ったらまた大冴の家に行ってみよう。
また留守だったら置き手紙でもして来よう。
やっぱりスマホも買おうかな。
未來に聞いたら大冴の連絡先も分かるだろうし。
そうだ未來。
未来にもずっと会っていない。
でも未來にはなんだか会いづらい。
いつの間にか琉海はそのまま寝入ってしまった。
遅くにむうちゃんが帰ってきた気配がした。
部屋は暗いままでごそごそ物音がしていると思ったらふわりとブランケットのようなものが体にかけられた。
温かくて琉海はそのまままた眠りに落ちていった。
次の日昼過ぎに大阪に着くと大阪はすでに夏だった。