人魚姫
——別に僕は何も気にしてないよ。
久しぶりに見る海男の文字。
「じゃあどうしてずっと姿を見せなかったの?」
体調が悪かったのだと海男は言った。
そうだ、海男も琉海と同じように副作用があるはずだ。
琉海がそれを尋ねると海男は琉海と違って腹痛じゃなくときどき軽い頭痛がする程度だと言った。
でも琉海と大きく違うのは琉海が水に触れると触れた箇所に鱗が出現するのに対し、海男の場合は痛みが走るのだそうだ。
だから湿度の高い日や雨の日はあまり好きじゃないと言う。
「元人魚なのに?」
——そうだね。
と海男は顔をくしゃっとさせた 。
「それってどれくらい痛いの?」
——大したことないよ。
海男は琉海の手の甲を軽くつねった。
——これくらい。
全然大丈夫でしょ、と海男はうなずいて見せた。
きっと嘘だ。
本当はすっごく痛いんだ。
だってあたしのお腹もすっごく痛いんだもん。
——それは何?
海男は琉海の膝の上の箱を指差した。
「あ、これおはぎ。海男も1つ食べる?たくさん買ったんだ」
琉海が差し出すと海男は1つ手に取りぱくりと大きな一口を頬張った。
海男のこういうところが好きだ。
琉海ももう1つおはぎを手に取る。
海男は何でもあたしと一緒に美味しそうに食べてくれる。
本来偏食であってもおかしくない元人魚なのに。
それに比べ雑食の人間の大冴や未來の方が激しい偏食持ちだなんて。
「もう1つ食べる?」
海男は、いらない、と首を振った。
——それ大冴のために買ったんだよね、残しておきなよ。
海男は微笑んだ。
果たして大冴にこのおはぎを手渡すことができるだろうか。
本当にいつも留守なのだろうか、もしかすると避けられているのかも知れない。
もしかするとじゃなくてきっとそうだ。
肩をとんとんと叩かれた。