人魚姫
ふいに男性がよろけバランスを崩す。
持っていたトレイの上のグラスが倒れ中に入っていた飲み物が海男の肩にかかった。
とっさに海男は前かがみになって肩を押さえる。
「す、すみません」
男性は慌てて謝り、拭くものを探してきょろきょろする。
横の女性がすぐにハンドバックからハンカチを取り出し海男の肩を拭こうとした。
と、その時、海男は女性の細い腕をつかんだ。
顔を上げた海男はゆっくりと首を横に振った。
その顔は汗ばんでいて青白かった。
「あ、あの」
状況が分からずに動揺するカップル。
琉海は何が起きているのかをすぐに察した。
「だ、大丈夫だから。あとはあたしがやるから」
まるで2人を追い払うように両手を突き出す琉海を怪訝そうに見ながらも、カップルは琉海たちのテーブルを離れていった。
「大丈夫?海男」
琉海は自分のバックからタオルを取り出した。
海男は琉海から受け取ったタオルでそっと肩を拭く。
「痛い?大丈夫?」
大丈夫だよ、と言う海男の顔色は悪い。
すごく痛いんだ。
軽くつねるぐらいの痛さなんかじゃ全然ないんだ。
拭いても濡れたシャツがすぐに乾いてくれるわけではなく、海男は平気そうにしていたがその顔色はずっと悪いままだった。
「ちょっと待ってて」
琉海は海男をテーブルに残してさっきのぞいたギフトショップに走った。
「はいこれ買ってきたよ」
海男に袋を突き出す。
——なに?これ?。
「とにかく着替えなよ」
中にはイルカがプリントされたTシャツが入っていた。
ありがとう、と海男はとても嬉しそうにその場で着ていたシャツを脱いだ。
その体が意外にも逞しく琉海は驚く。
前に見た未來の体とは全然違う。
買ってきたTシャツは海男には少し小さくて窮屈そうだった。
取り替えてもらおうかと尋ねるとこれでいいと言う。