人魚姫

「前にいたんだよ、本当のストーカーみたいな女が」

 未來と一緒に遊びに出かけた時に1度だけ会って話した女だったという。

「つか、おまえも来るなら来るで俺に連絡ぐらいしろよ」

「あたし大冴の連絡先知らないし、電話持ってないし」

「電話買えよ。今どきケータイ持ってないやつなんていないぞ」

 エレベーターがチンと鳴った。

 最上階に着いて扉が開く。

 部屋に入ると茶々丸が走りよってきた。

 大冴と琉海を行ったり来たり尻尾を振る。

 よしよしと大冴は茶々丸の頭を撫でる。

 茶々丸はひとしきり喜びを表現すると興奮がおさまったのか、ソファーの上に落ち着いた。

 大冴は部屋の灯りもつけずに窓の前に立った。

 正面にスカイツリーが見える。

 黙って窓の外を眺める大冴をうかがうように琉海はそっと横に立った。

「スカイツリーもけっこうきれいだね」

「うそつけ、おまえも東京タワーの方がいいって言ってたくせに」

 確かに言った。

 実際今でも東京タワーの方がきれいだと思う。

「大冴はスカイツリーのどこがそんなに好きなの?」

「高いから。それになんか未来的でかっこいい。というのが誰でも思うような昔の俺の理由。でも今は違う」

「今は?」

「俺みたいだから」

 大冴は短く答えた。

「背が高いから?」

 琉海は大冴と出会った最初の方密かに大冴を灯台男と呼んでいたのを思い出した。

「ちがう、あ、でもそれもそうだな」

 大冴は少しだけ笑った。

「あのぼうっと薄暗いのが死者を弔っている墓石みたいだろ。死んだ律と真人を弔い続ける俺にそっくりだ」

「大冴……」

「見るか?」

 大冴は自分の寝室のドアを開けた。

「東京タワー」

「いいの?立ち入り禁止じゃ」

 大冴は笑い、あごをしゃくって琉海を促した。

 初めて入る大冴の寝室。

 そこから見える窓の外の景色は圧巻だった。

 目の前に東京タワーが光輝いている。 

 琉海は思わず息をのんだ。


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