人魚姫
大冴は立ち上がると大きく伸びをした。
「さてとそろそろ行くか……今度さ、どっか行くか」
「どっかって?どこ?」
「だからどっか。おまえの行きたいところとかさ」
「行く行く行く、スカイツリーに行きたい」
「スカイツリーはいいよ」
大冴は照れたように口を歪ませた。
「どっかもっと人が少ないとこがいいや」
また来るからそれまで考えておけよ、と大冴は行こうとして振り返った。
「あ、その前に今晩うちに来れるか?」
人から肉をもらったという。
大冴1人では到底食べきれないし、食べたくもないから琉海にあげると大冴は言った。
「うん、行く行く」
大冴は口角を上げてにっと笑うと行ってしまった。
琉海はそのまま駆け出し海の中にダイブしたい気分になった。
目を閉じ水の中をぐんぐん飛ぶように泳ぐところを想像する。
大冴があたしをデートに誘ってきた。
水面に輝く光に向かって琉海は上昇していく。
好きになった人が自分を好きになってくれるってこんな気分なんだ。
なんて素敵。
琉海は両腕を広げた。
「琉海ちゃん」
シャボン玉が弾けるように目の前の琉海の海は消えた。
目を開けると未來が立っていた。
久しぶりに見る未來は少し痩せたように見えた。
未來が来るのと同時に数人の客がやってきて琉海は再び忙しくなった。
未來は琉海の仕事が終わるまで近くのカフェで待つと一旦その場を離れ、しばらくしてまた戻ってきた。
ちょうど最後の1つが売れて琉海が店じまいを始めようとしたころだった。
「すごいね琉海ちゃん、お店繁盛してるね」
未來は心底感心しているようだった。
それ持つよ、と琉海の荷物を全部取り上げる。
「これからまたあの焼肉屋を手伝うの?」
琉海がもうその必要はなくなったと答えると未來は、じゃこれからドライブでもしよう、と提案してきた。
琉海は自分の荷物を未來の手から取り戻す。