人魚姫
「未來ごめん、あたし今晩大冴んちに行く約束してるんだ、それにあたし、ごめん」
「なんで謝まんの?」
「だってあたしは大冴が、だからごめん」
「謝ってなんて欲しくないな」
未來は琉海の手から1番重いバックを取り戻した。
「琉海ちゃんは謝らなければいけないようなことはしてないし、そんなに謝られるとなんか惨めな気分になっちゃうよ。ドライブの後そのまま大冴んとこに送るよ」
そう言うと未來は琉海の荷物を持ってさっさと歩いて行ってしまう。
必然的に琉海は未来を追いかけることになる。
「ねぇ、どうして未來はあたしのことなんかが好きなの?」
未來が急に立ち止まるので琉海は未來の背中の顔をぶつけそうになる。
「理由を聞いてどうするの?じゃあ聞くけど琉海ちゃんはどうして僕じゃなくて大冴がいいの?」
「それは……」
「琉海ちゃんは大冴を可哀想だと思ってない?それを好きと勘違いしてるんじゃないかな」
「どういうこと?」
「大冴の置かれた境遇とかもろもろ」
未來は言った。
親から期待されない次男坊。
長年恋い焦がれる女性は優秀な兄貴に想い。
全てに恵まれた兄はある日突然自らの命を絶つ。
みんなが言っているのが聞こえてくるようだ。
『弟の方がいなくなれば良かったのに』
琉海の目の前に暗い部屋のベッドに腰かけうつむいている大冴が現れた。
「琉海ちゃんはときどき律と同じような目をして大冴を見るんだよね」
「お、同じ目ってなに?」
「可哀想な大冴って目」
いや、違うな、と未來はわずかに首をかしげたが、すぐに正面を向いた。
「大冴ごめんね、って目。律は分かる、大冴を好きなってやれなくてごめん。でもどうして琉海ちゃんがそんな目を大冴にするのか僕はずっと不思議に思ってる。なんで?琉海ちゃん」
琉海は未來から目を逸らした。
それは琉海が律を見殺しにしたからだ。