人魚姫
未來の長めの髪が風に煽られる。
琉海の体が凍りついた。
「止めて!」
見間違いであるなら見間違いであって欲しい。
「どうした?琉海ちゃん」
「いいから止めて」
未來は車を道の端に寄せた。
「いったいどうしたの?」
琉海は自分の首の後ろを指差した。
「未來のここにあるのって……」
未來は自分の首に手をやる。
「なに?タトゥーのこと?」
「タトゥー?」
「なにこのタトゥーがどうしたの?」
未來は髪をかきあげ首を露出させた。
そこにはくっきりと青い色をした星が刻まれている。
「なんだタトゥーなんだ、アザじゃないんだね」
琉海はほっと胸を撫で下ろす。
陸の王子を探し出すためのリストに一応未來の名前はあったが、糸の色が違う未來は王子であるはずがなかったし、未來であってはならなかった。
王子を探し出す理由がもはや殺すためだけである以上、それが未來であってはいけなかった。
「よかった、それならいいんだ」
「元々アザだったけどね。それを隠すためにタトゥーをいれたんだ」
「どんなアザ?どんな形をしたアザだったの?まさか星型じゃないよね?」
未來は目を丸くして驚いている。
「どうしたの琉海ちゃん」
「星型じゃないよね」
未來は首の後ろに手をやった。
「さ、さあ、どんな形だったかよく覚えてないや。首の後ろは自分じゃ見えないからさ。でも結構大きくてはっきりしてたから嫌だったんだよね。でも星型って言われればそんな形だったような、でもなんで?」
「ちょっと見せて」
琉海は未來の首の後ろをのぞき込んだ。
近くで見るとタトゥーは複雑な模様からできていた。
「見てもアザはもう分かんないと思うよ。腕のいい彫り師だったから。アザとか古いタトゥーを上手く使って新しい模様を刻むのが得意なさ」
でもなんで?と未來が再び訊いてきた。