人魚姫
「なんでもない、ただちょっとめずらしかったから。あたしも入れてみようかな」
入れるんだったら紹介するよ、と未來はハンドルを握った。
「さて、じゃあまた飛ばすか」
未來がアクセルを踏むとそれに答えて銀色のスポーツカーは唸った。
琉海の胸のもやもやはそれからいくら夜風に吹かれても消えなかった。
そればかりかそれはますます濃くなり重みを増すかのようだった。
首の後ろにアザがある人なんてそんなにいるものではない。
それも琉海の周りという限定された中で。
未來には琉海が海で助けたというはっきりとした事実がある。
そして首の後ろのアザ。
最後の1つは最初に触れた時に火花が散るという3つの条件の中で1番あやふやなもの。
未來にはそれがないだけだ。
それと糸の色。
でも糸の色は元々人魚の伝説には伝えられていないことだ。
よくよく考えれば陸の王子が虹色の糸を持っていなければいけないとは限らないではないか。
もしそうであるなら、それも伝説の中で伝えられているはずだ。
琉海は祈った。
どうか未來が陸の王子でありませんように。
そうだ、リストにある他の男の人たちを早くチェックしなければ。
誰かに星型のアザがあれば、未來が陸の王子でないことではないか。
未來も大冴のとこに寄って行くか尋ねたが、未來はこれから1人でもう少し夜の街を走ると行ってしまった。