人魚姫

 大きな箱の中には生ハムやらサラミやら真空パックになった加工肉が詰まっていた。

「わー、これ全部もらっていいの?」

 琉海はどれから食べようかと目を輝かせながら1つ1つを手に取ってみる。

 急に部屋の明かりが消えて真っ暗になった。

 さっきまでそこにいた大冴もいない。

 大冴の寝室のドアが開いていて、そこから光が漏れている。

「大冴?」

 物音が聞こえたので琉海が呼ぶと、寝室から長い影が走り出てきた。

 その影の頭の部分がいくつものツノが生えたようにギザギザしている。

「がおっーーーーー」

 琉海は尻もちをついた。

 琉海の脳裏にある映像が蘇る。

 あの時の!

 琉海の背後で波音が聞こえる。

 琉海を見下ろす影、その後ろの眩しい太陽。

 あの影と同じだ。

「お、おい」

 大冴の声と同時に部屋が明るくなった。

「なにまじでそんなに驚いてんだよ」

 緑色のギザギザしたものをかぶった大冴が琉海に歩み寄ってくる。

「それなに?」

 琉海は大冴の頭を指差した。

「子どもの頃家族でニューヨーク旅行した時に買ってもらった自由の女神の冠」

 大冴は自分の頭から外すと琉海に手渡した。

 スポンジでできたそれは触れるとふにゃふにゃと柔らかい。

「かなりボロくなってるけどさ、あの頃はこれが宝物みたいに思えていつもかぶって遊んでた」

「そういうのが流行ってたの?」

「まさか、こんなのかぶってたの俺だけだよ。それにこの冠はニューヨークじゃないと手に入らないし、買ってこんなもんわざわざ持って帰ってきてかぶる奴なんていないさ」

 もしかして、もしかしてのまさか。

「大冴、それかぶって海に行ったことある?」

「そう言えば別荘にも持って行ってたかもな」

「ねえそれかぶって海に行った時、にん」

 人魚と言おうとして琉海は口をつぐんだ。

 人魚と出会わなかった?

 釣り糸に絡まった人魚の糸を解いてあげなかった?


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