人魚姫
伝説の海の姫とは人間の心を持ち得る選ばれし者。
人間の心とは人魚が持つことができない自己犠牲の心。
自分より他者を思いやる、その気持ちこそが深い愛なのだと。
それを持つことのできる姫だからこそ人間の男を愛し、同じように愛されたときに2人が世界を変えるほどの力を持つのだと。
そういった意味では王子を殺して人魚に戻った姫たちは真の伝説の姫ではなかったことになる。
たとえそれらの姫が愛した王子が姫を愛しても伝説は叶えられなかったかも知れない。
「だからこそ、真の伝説の姫の血を繋ぐことが大切です。死んではなりません。あなたが死ねば次の姫が生まれてくるまでにまた何百年も待たないといけなくなるかも知れません」
それに、と深海の魔女の瞳に暗い影がさす。
「あなたの愛した男はあなたが死ぬ時に一緒に死ぬことになるでしょう」
「な、なんで?なんで大冴が?」
琉海は深海の魔女に詰め寄った。
魔女は琉海の頬に手を当てた。
その手はとても冷たかった。
「あなたが死ぬとき、男に残ったあなたの想いは爆発を起こし飛び散ります。その衝撃に人間は耐えられないのです。もし少しでも男があなたに心を許していたならなおさらのこと、あなたの想いは男の心臓の真ん中にあり、男は確実に死ぬでしょう」
「そ、そんな」
「愛する男を道連れにして死ぬか、陸の王子を殺して2人生き延びるか、あなたに残された選択はそのどちらかです」
そんなのどっちも嫌!
琉海は叫ぼうとしたが声にならなかった。
きっとあるはずだ、何か別の方法が、誰も死なずにすむ方法が。
「1つだけ男が助かるかも知れない方法があります」
深海の魔女は琉海を哀れむように、琉海の頬を撫でた。
「でもこれは賭けです。助かる保証はどこにもありません」
琉海はすがるように深海の魔女の手を握った。