人魚姫

琉海の決意

その日大冴は遅めの午後やってきた。

 めずらしく客が少ない日で琉海のアクセサリーはまだ売れ残っていた。

「なんだおまえの店、もう傾きかけてんじゃん」

 大冴は憎まれ口をたたく。

「大冴全部買ってよ」

 20個ほどのアクセサリーが黒い布の上に広げられている。

「いくらだよ」

「5万」

「高っ」

 それでも、仕方ねぇな、と大冴は財布を胸ポケットから取り出そうとする。

「嘘だよ、冗談」

 琉海はついさっき並び替えたばかりのアクセサリーをまた並び替える。

 大冴は琉海の横にしゃがむと黒い革紐のネックレスを手に取った。

「これも珊瑚?」

 大冴が手に取ったのは黒と黄色が混じった石だった。

「それは天然石」

 海で取れた天然石は陸で取れたものよりもそのパワーが強い。 

 めずらしい珊瑚以上に貴重だ。

「これいくら?」

「それあげる」

 琉海は大冴の首に革紐をかけた。

「この石は金運や仕事運に効くよ。物事の本質を見抜く力が宿る石なんだ」

 大冴はへぇ〜と信じているようないような調子で相槌を打つ。

「その石、大冴と同じ名前だよ。タイガーアイって言うんだ」

 そう言うと大冴は急に興味が出てきたのか 石をつまんでまじまじと眺めた。

「おまえさ、これどこから仕入れてんの?」

「姉さんたち」

 大冴は、えっ?という顔をした。

 琉海はかまわず続ける。

「姉さんたちに海から取ってきてもらってるんだ」

「なに、おまえの姉貴たちって海女さんかなんか?つか家族と連絡取ってんのかよ」

「姉さんたちとは前からときどき会ってるよ。大冴に話した家族の話、あれ全部嘘だもん」

 大冴の口が半開きになったまま固まっている。

「なんで嘘なんか」

 大冴の胸のタイガーアイが琉海を睨んでいる。

 この石を大冴が手に取ったのも運命なのかも知れない。



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