人魚姫
大冴は弾けるようにお腹を抱えて笑いだした。笑いすぎて涙目になった大冴は、あーあ、と体を起こした。

「ウケる、人間じゃないって言うから何かと思ったら、何かよ、尻尾はないからおまえは人間になった人魚だってこと?さながら人魚姫だな」

「そうだよ、だからあたしは姫だって言ったじゃん。陸の王子を探すためにあたしは人間になったんだ。最初は大冴が陸の王子だと思ってた。でも違った王子は未來だった」

 未來の名前が出てきて大冴の顔つきが変わった。

 琉海は王子と相思相愛になれなければ自分が死んでしまうこと、生き残るためには王子を殺さないといけないことを話した。

「あたしが好きになったのは未來じゃなくて大冴だった」

 そして人間の男を人魚にし海へ帰れること。

 2人の間に生まれた子供は伝説の姫である可能性が高いことも話すと琉海はポケットから小瓶を取り出した。

 不気味な黒い液体を大冴に見せる。

「大冴、これ飲んであたしと一緒に海に帰って」

 大冴は小瓶を手に取ると軽く揺らした。

 中の液が波打つ。

「で、未來は殺すってか」

 大冴は小瓶を琉海に投げて返した。

「あたしだって本当は嫌だよ。でも仕方ない」

「狂ってんな」

 大冴は吐き捨てるように言った。

「おまえ狂ってる。最初頭おかしいと思ってたけど、やっぱちゃんと精神病院に連れてくべきだった。今からでも遅くないか、行くぞ、ほら」

 琉海は後ずさる。

「あたしは狂ってなんかいないよ、大冴この前人魚の存在を信じるって言ったじゃん」

「あんなの冗談に決まってるだろ、じゃお前が人魚である証拠を見せてみろよ」

「証拠を見せたらあたしが人魚だって信じる?」

「ああ、信じてやるさ」

「あたしの話も全部?」

「ああ」

「そのあとどうする?」

「もしおまえの話が本当なら」

「本当なら?」

「おまえを殺す」

 大冴はきっぱりと言った。




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