人魚姫
「律を見殺しにし、未來を殺そうとするおまえを殺す」

 琉海は用意しておいた水の入ったペットボトルを手に取った。

「大冴見てて」

 琉海はボトルを自分の手の上で傾けた、その時。

 ぽつりと冷たいものが琉海の頬に当たった。

 空を仰ぐと重そうな灰色の雲から雨の雫が落ちてきている。

 ぽつり、ぽつりと琉海の顔に雨しずくが落ちる。

 雨はどんどん激しくなっていく。

 大冴の目の色が変わった。

 琉海は羽織っていた上着を脱ぐ。

「大冴、見てて」

 ちらほらといた人々は突然の雨に大急ぎで建物の中へと駆けて行く。

 琉海と大冴だけが残った。

 琉海の顔、首、服から露出した手先にびっしりと鱗が浮き上がってくる。

「大冴もっと見て」

 今自分はどんな恐ろしい化け物の姿をしているのだろうか。

 1番見られたくない姿を1番見て欲しくない人にさらす。

 琉海は着ているシャツに手をかけた。

「やめろ」

 大冴が叫んだ。

 琉海はシャツを脱いだ。

 下着姿だけの琉海の上半身に容赦なく雨が降り注ぐ。

 大冴の顔が驚きから恐怖へと変わっていく。

 大冴はその場から駆け出した。

「待って大冴!」

 大冴の姿が雨にかき消され見えなくなっていく。

「大冴、もっとちゃんとあたしを見て、大冴」

 冷たい雨が琉海に降り注ぐ。

 琉海を粉々に砕くように雨は……。

 琉海がその場に崩れ落ちそうになった時、後ろから誰かに抱きすくめられた。 

 琉海を雨から守るように、鱗の浮き出た琉海の体を隠すように覆いかぶさる。

「海男」

 雨に叩かれる海男の体がどんどん濡れていく。

「だめだよ、早く……」

 どこか雨に濡れないところに逃げないと、海男が痛いよ。

 あたしは鱗が出るだけだけど海男は違う。

 琉海は海男の腕を振りほどこうとしたがびくともしなかった。


< 146 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop