人魚姫
大冴が自分をもっと憎んで、憎んで、そして、

「どうせ死ぬんだったら、大冴に殺されて死にたい」

 落ち葉が乾いた風に転がされくるくると舞っている。

 もうすぐ冬が訪れようとしていた。




 琉海はいつの間にかすっかり部屋の一部になってしまった自分の荷物を眺めた。

 結局ずるずるとむうちゃんにお世話になってしまった。 

 でもそろそろここともお別れをした方がいいかも知れない。

 これから自分はどうなるか分からない。

 むうちゃんに迷惑がかからないうちに、むうちゃんにさよならを言おう。

 玄関のドアを叩く音がして開けると大冴が立っていた。

「おまえ未來になにするつもりだ」

 開けっ放しのドアから入ってくる風が冷たい。

「おい、なに黙ってんだよ」 

「寒いから中入る?」

 大冴が躊躇しているのが分かった。

「大丈夫大冴を取って食ったりしないから」

「なぁ、この前のこと冗談だよな、あれ手品かなんかだろ」

「だと思うならなんで大冴は今日ここに来たの?なんだったらもう1度見せようか?ここだったら裸になって水をかぶれるよ」

「ふざけんな」

 大冴は唸るように言い、足を1歩前に踏み出す。

 並べて置いてあった琉海の靴を踏みつけた。

 大冴に買ってもらった靴だった。

「だってあたしが生き延びる方法は未來を殺すしかないんだもん。仕方ないよ、あたしだって好きで伝説の姫に生まれたわけじゃないもん」

 最後は本音だった。

 好きでこうしているんじゃない。

 本当だったら普通の人魚に生まれて。

 いや、本当は人間に生まれて大冴と恋がしたかった。

「おまえの話を全部信じてるわけじゃないけど、未來はおまえが好きなんだ。そのまま未來を好きになればいいだろ」

「ひどい、あたしが好きなのは大冴なんだよ、大冴だって」

「うるさい」

 大冴は怒鳴った。


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