人魚姫
「俺がおまえのことが好きだったのは、おまえが人間……。いや俺はたとえおまえが人間じゃなくても、おまえが律を見殺しにしなければ、未來を殺すなんて言い出さなければ」

 琉海は自分が伝説の姫であることを呪った。

 今、大冴はなんて言った?

 大冴はあたしを人魚と知っても好きになってくれると?

 そうだ、あのとき大冴は釣り糸に絡まった人魚の自分を助けてくれたではないか。

 琉海と大冴はもしかしたら深海の魔女と町医者のように恋に落ち、彼らが手に入れられなかった幸せを手に入れることができたかも知れない。 

 琉海が伝説の姫でさえなければ、律を見殺しにすることも、未來を殺さなければいけなくなることもなかった。

「ねぇ大冴すべて忘れてあたしと一緒に海で暮らそうよ」

 大冴に伸ばした琉海の手を大冴は振り払った。

「触るな、この化け物」

 琉海の体が固まる。

「おまえはやっぱり人間じゃない。人間だったら律を見殺しにしたり、未來を殺すなんて絶対にできない。少なくとも未來は、未來はおまえが好きで、おまえだって未來と楽しそうに」

 大冴は言葉を詰まらせた。

 確かに律を見殺しにした時は琉海は人魚の心しかもっていなかった。

 あの時は陸の王子も簡単に殺せると思っていた。

 でも今、琉海は大冴に恋することで人間の心を得た。

 でもだからと言って琉海が人間になれるわけでもなく、琉海は人魚のまま、化け物のままだった。

「だったらあたしを殺しなよ」

 大冴の両手を琉海は自分の首に添える。



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