人魚姫
どうか陸の王子が素敵なイケメンでありますように。
例えば最初に会ったこのコートを着せてくれた男のような。
灯台男もみてくれは悪くはないが性格が相当悪そうなのでナシだ。
灯台男は琉海を交番に届けるとさっさといなくなっていた。
琉海のコートの下が裸だと分かると、お巡りは急に深刻な顔をして琉海にいろいろと質問をしてきた。
誰かに乱暴されたのかとか、それともどこかから逃げてきたのか、とか。
それらの質問全てに琉海が首を横に振るとお巡りは琉海の名前や住んでいるところなどいろんなことを聞いてきた。
琉海が答えることができたのは琉海という自分の名前だけだった。
「困ったなぁ、なんにも覚えてないのか。ちょっと医者にも診てもらった方がいいかもなぁ」
医者はやばい。
体をあれこれ調べられたら普通の人間じゃないとバレるかも知れない。
それに痛いことをされるかも知れない。
琉海は慌てた。
「大丈夫です。どこも悪いとこなんてないし」
「と言われてもねぇ。このまま帰すわけにはねぇ。それに自分の家も分からない、なんにも分からないんでしょ」
琉海はうなずいた。
「家族のこともなんにも覚えてないの?」
家族は海にたくさんいる。
姉はざっと数えて数十人はいるがそんなことは言えない。
「引き取りに来てもらう人がいないとどうしようもねぇ」
このままだと病院に連れて行かれるかも知れない。
とりあえずこの場から脱出しなければ。
琉海はひらめいた。
「あ、思い出しました。1人知っている人がいます。このコートの持ち主です」
また会うんだったらあの灯台男より絶対最初に会った男がいい。
「そんなこと言われてもねぇ」
お巡りはまじまじとコートを眺め、とりあえず琉海に毛布で体を包ませコートを脱がせた。
お巡りはコートのポケットに手を突っ込んだり裏返したりとコートを調べ始める。
「お!」
小さく声をあげると、眼鏡、眼鏡と呟きながら胸ポケットから眼鏡を取り出した。