人魚姫
「律はね、自分より先に大冴を助けてほしいってあたしに言ったよ。あたし未來を浜辺に運んで、次に大冴を運んで、それからヨットに戻って律を助けるふりしてわざとヨットを沖に押しやったんだ。律は最後まで大冴のことを心配してたよ。律が大冴のことすごい好きだって分かったから、あたし律が邪魔になると思って殺したんだ」

 あたしを憎んで大冴。

 言葉にならない声で大冴は叫んだ。

 その目に涙が滲んでいる。

 充血した目には哀しみと憎しみが混じり合っていた。

「貴様」

 大冴の手に力が入る。

「貴様よくも律を、俺の律を」

「律はお兄さんよりも大冴が大事だったよ」

 琉海は目を閉じた。

 大冴は本気だった。

 大冴の指が琉海の白い喉に食い込む。

「り、つは、大冴がす……き、だ……った……よ」

 もっと力を入れて大冴。

 あたしを絞め殺して。

 意識がだんだんと遠のいていく。

 そのとき大冴と琉海に誰かがぶつかってきた。

 琉海は床に投げ飛ばされそのまま激しく咳きこむ。

「あんたなんてことしてんだい!」

 むうちゃんの声がした。

 霞む視界にむうちゃんが大冴の胸ぐらをつかみ壁に押し当てていた。

 噛みつかんばかりの勢いだった。

 大冴はむうちゃんを簡単に跳ねのけるとそのまま走って行ってしまった。

「あんた大丈夫かい」

 むうちゃんはすぐに琉海のところに駆け寄ってきた。

「痴話喧嘩にしては尋常じゃない。あの男本気で絞めてるよ」

 むうちゃんは琉海の首についた指の跡を見て顔をしかめた。

「いったい、なにがあったっていうんだい」

「むうちゃん……」

 琉海はことんとむうちゃんの胸に頭を預ける。琉海の震える肩をむうちゃんは優しく撫でた。



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