人魚姫
むうちゃんはビールを1口飲むといつものぷはぁ〜ではなく細いため息をついた。

「まぁ、話したくないなら話さなくてもいいけどね、人にはいろんな事情があるからさ」

 ここを出て行かなければいけない時期がきたかも知れない。

 琉海は思った。

 お世話になったむうちゃん、迷惑はかけられない。

 琉海が陸に上がってからもうすぐ1年が経つ。

 最後がどんなふうになるのか琉海自身不安だった。

 琉海がちゃんとしていられる時に、ちゃんとお別れをしなければと思った。

「むうちゃん、今まで本当にありがとう。あたし来週ここを出て行くね」

 むうちゃんは「ど、ど、どうして急に」とどもった。

「家族と仲直りしたんだ」

 琉海の白々しい嘘をむうちゃんは信じなかった。

 あの彼のところに行くのか?

 と訊かれたので大冴とは別れたと首を振る。

 むうちゃんはちょっと安心したようだったが、でも気をつけた方がいい、ここに居た方がいいと琉海を説得しようとする。

 琉海は実は未來のところへ行くのだと重ねて嘘をついた。

 この嘘をむうちゃんは信じた。

「あの彼だったら安心だ。あんたは好きかも知れないが炎の色を持つ彼はいい意味でも悪い意味でも感情の起伏が激しいから危険だ」
 
 でもね、とむうちゃんは続けた。

「やっぱり、あんたはあんたと同じ色の糸を持つ相手を見つけた方がいい」

「でも……」

「少なくとも、その相手を好きになれなくてもあんたの近くに置いておくこと。そうすれば、どんなことが起きたって相手があんたをそれこそ命がけで守ってくれる。あたしは心配なんだよ」

 むうちゃんは琉海の手を握った。

 運命の糸。

 結局誰が琉海と同じ虹色の糸を持つのか分からないまま終わってしまいそうだ。

「あたしも誰があたしとおんなじ糸を持っているのか知りたかったけどさ、結局今のあたしの周りにはいなかったし、これから先会ったとしても、むうちゃんがいなかったら分からないし、あたしには糸は見えないから」


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