人魚姫
「見る方法があるよ」

「え?」

「ある条件がそろえば、誰でも糸を見ることができる」 

「ほんとに?」

「水平線から昇る朝日の光と涙のレンズがあれば誰でも糸を見ることができる」

 朝日は分かるが、涙のレンズとはなんだ?

 琉海が尋ねるより前にむうちゃんが答えてくれる。

「つまり海辺で朝日を浴びながら泣く状態ってことさ」

 朝日といっても太陽がまさに顔を出した瞬間からたったの数秒だという。

 でも朝日を見に行こうと糸の色を見たい相手を誘えば、そんなに難しいことではない。

 涙だってその気になれば大丈夫、流すことはできる。

「あともう一つ、大切な条件がある」

「まだあるの?」

 むうちゃんはトンと1度自分の胸をぐーで叩いた。

「ハート」

「ハート?」

「ラブ」

 つまりそれは自分が好きな相手であることが条件だというのだ。

「なんだ、それじゃ」

「意味がないわけじゃないよ。少なくとも自分が好きな相手が運命の相手かそうじゃないかが分かるんだから、恋する者たちにとってはありがたいことだよ」

「そうだけど」

 琉海にはなんの役にも立たない。

「これから先、あんたもまた新しい恋をするんだから」

 あたしにはこれから先はないんだよ、むうちゃん。

 琉海は無理やり笑みを作って「そうだね」とうなずいた。

「なんだよ、せっかく教えてあげたのにあんまり嬉しそうじゃないね」

 むうちゃんは口をへの字口に曲げビールを飲もうとしたが空なのに気づく。

「あたし取ってきてあげるよ」

 琉海は小走りでキッチンに行くと冷蔵庫から冷えた2本のビールを取り出す。

 冷蔵庫の扉を足で蹴って閉めるとリビングに戻った。

「ねぇ、むうちゃんの糸はどんな色をしてんの?」

 琉海は前から気になっていたことを聞いてみた。

 むうちゃんは琉海からビールを受け取りながら、自分の糸は黄色と青の2色なのだと言った。




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