人魚姫
その先はむうちゃんが話したがらないようだったので琉海はそれ以上聞かなかった。

 男のような女のむうちゃん。

 糸の色も2色。

 人の2倍、いろんな思いをしてきたのかも知れない。

 その夜、琉海はむうちゃんと家中のお酒がなくなるまで飲んだ。

 最後は料理酒にまで手をつけた。2人でたくさん笑った。

 むうちゃんありがとう。

 琉海は何度も心の中で礼を言った。

 むうちゃんに出会えて良かったよ。

 あたしはもうすぐこの世界からいなくなってしまうけど、むうちゃんの言うようにもし来世というものがあるなら、あたしは人間に生まれ変わって、またむうちゃんと友だちになりたい。

 その時は今のように隠し事のない、本当の友だちになりたいよ。



 それから数日後、12月に入ってすぐ琉海は荷物をまとめてむうちゃんの家を出た。

 見送られるのは淋しいからむうちゃんが仕事でいない時にした。



 
 声をかけられたのは琉海がネットカフェの看板を見ているときだった。

「琉海ちゃん」

 未來だった。

「未來、それに……」

 大冴は琉海から目を逸らした。

「こんなところで何してんの?今日はお店休み?これから2人で行こうと思ってたんだけど」

「あ、うん」

 店はもうやめた、とは言えなかった。

 理由を聞かれそうで。

 お金は十分に溜まった。

 琉海に残された日々は少ない。

 使いきれないほどだ。

「ネット使いたいなって思って」

 もし大冴に殺してもらうのだったら、大冴が罪にならないようにするにはどうしたらいいのかを調べたかった。

「そっか今ドキ琉海ちゃんスマホ持ってないもんね、そんなもん大冴に頼めばいいのに」

 そう言いながらも未來は腰を屈めてネットカフェの看板をのぞき込む。

「僕、ネットカフェは使ったことないけど、へぇ〜ずいぶん安いんだねぇ」

 そのとき通りがにわかに騒がしくなった。


< 153 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop