人魚姫
琉海は夢を見ていた。

 雲1つない海を映したような空に眩しい太陽が輝いている。
 
 琉海はその下で岩に腰かけフライドチキンを貪っていた。

 太陽に照りつけられた岩の熱さがなぜか懐かしい。

 残りのチキンに手を伸ばすとその手に釣り糸が絡まっている。

 ふと自分の体を見ると全身に糸が絡まり大変なことになっていた。

 動くと釣り針が琉海の柔らかい肌を刺した。
 
 もがけばもがくほど糸は複雑に絡まっていくようだった。

 ああ、これは夢じゃない。

 琉海は思った。

 あの時のことだ。

 ヒラリと現れた黒い影。

 特徴的なとんがった頭。

 パニックになった琉海に影が伸びてくる。

 影と琉海が触れたその瞬間。

 火花が散った。

 釣り糸から解放された琉海は水の中に飛び込み、無我夢中で深く深くへと泳いだ。

 冷たい海の底で影に触れられた部分がいつまでも熱く火照っていた。

 あれは……あの影は。

 琉海の頭に稲妻のようにその答えが閃いた。

 陸の王子だったのだ。

 あの時が、琉海が初めて陸の王子と出会った瞬間だったのだ。

 琉海はすでにずっと昔、陸の王子と出会っていたのだ。

 だったら大冴が陸の王子?

 いや大冴は違う。

 琉海を釣り糸から助けたのは大冴じゃなかった?

 じゃあ誰?

 あれは誰?





 近くに気配を感じた。

 うっすらと目を開けたが真っ暗で何も見えなかった。

 自分は死んでしまったのだろうか。

 空気が揺れ、気配のする方を向くと月明かりを背中に受けた影が琉海を見下ろしていた。

「陸の……王子」

 琉海ははっきりしない意識で王子を呼んだ。

「あなた……だったんだ」

 影が琉海の額に触れる。

 その手は冷たかった。

「海男」

 琉海はその手を握ろうとするが、うまく体が動かない。

 それにとてつもなく寒い。

「来てくれると……思ってた」

 
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