人魚姫
律はまるでさっきまで活発に動いていたかのように頬をほんのりピンク色に染め、たった今眠りについたかのように見えた。

 1年前に海で死んだはず律の体はまったく腐敗していなかった。

「おい、これどういうことだ」

 大冴が初めて琉海を、いや、琉海の横の未来を見た。

「なんで律はこんななんだ?本当に律はあの時死んでたのか?これじゃまるでさっきまで生きてたみたいじゃないか!」

 大冴は律にかけられた白い布を全て剥ぎ取る。

 律は白いワンピース姿で靴まできちんと履いていた。

「おい琉海、おまえ言ったよな。1年前律を見殺しにしたって、おまえが律を殺したって言ったよな」

「大冴!」

 未來が叫んだ。

 未來は琉海の肩を優しく叩くと律の寝ているベッドの横に立った。

「大冴よく見てみろよ。律の格好はあの日のものだ。髪の長さもなにもかもあの時のままだ。律は最近まで生きてたわけじゃない。1年前のあの嵐の日に事故で死んだんだ」

 未來は事故と強調した。

「でも、じゃあなんでこんな」

「見てみろよ、これ」

 未來は律の左手首の切れかかったミサンガを指差した。

「これおまえとお揃いでつけてたやつだろ。もう少しで切れるって、律楽しみにしてた」

 早く願い事を叶えたくて、大冴がわざと自分のものを切ったお揃いのミサンガ。

 願い事は……、

 律の1番になれますように。

「律」

 大冴は律を抱き起こした。

「律、律、律」

 大冴のすすり泣く声が部屋に響く。

 琉海は1歩、2歩、と後ずさった。

 そのまま音を立てずに建物の外へ出る。

 外は冷たい風が吹いていた。

 大冴の言葉が琉海の胸の中でリフレインする。

 おまえ言ったよな、おまえが律を殺したって。

 全身の力が抜けて、琉海はその場にしゃがみこんだ。

 大冴は連れていけない。

 琉海は遠くに見える冬の海を見つめた。



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