人魚姫
陸の王子が生きている。

 大冴が最後まで言わなかった言葉。

 このままじゃみんな死んでしまう。

「ちくしょう」

 大冴が小さく唸った。




 別荘にやって来た未來に深海の魔女との話をすると未來はすぐに立ち上がった。

「これから手当たり次第そこらじゅうの男の首の後ろを見て回ろう」

「未來……」

 琉海は未來を見上げる。

「諦めたら駄目だ琉海ちゃん。真人以外に首の後ろに星型のアザがある男がいるってことだ。ほら大冴も何やってんだ、探しに行くぞ、最後の最後まで諦めんな」

 大冴は未來にそう言われ、目が覚めたように曇らせていた表情を晴らせた。

「そ、そうだな。最後の最後まで粘ってやる」

 琉海もうなずいた。





 

 3人はばらばらに分かれて1日中陸の王子を探し回った。

 いきなり「首の後ろに星型のアザがありませんか?」と聞くとみな一様に怪訝な顔をしたがそんなことをかまっている場合ではなかった。

 気づくと辺りはすっかり暗くなっていた。

 歩き回ったせいで足がひどく痛む。 

 琉海は座れそうなところを探して腰かける。

 喉が乾いて水を飲もうとしたが、さっき買ったペットボトルにはわずかな水しか残っていなかった。

 舐めるように最後の1滴を飲み干す。

 遠くに自動販売機の明かりが見えたが、そこまで歩いていく気力がなかった。

 絶望的だった。

 でも最後まで諦めるわけにはいかない。

 自分だけが死ぬのならまだしも、大冴まで道連れにできない。

 なんとしてでも陸の王子を見つけ出し、

 琉海はペットボトルをペコンと凹ませる。

 陸の王子を殺すしかない。

 ペコン、ペコンと琉海の鳴らすペットボトルの音が辺りに響いた。

 琉海は深海の魔女が言ったことを思い出していた。

 大冴が琉海のことを好きだと答えた後に魔女が言った言葉。


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