人魚姫
あたしの陸の王子さま
空のてっぺんに輝く満月に白く揺れる波が照らし出される。
規則正しくリズムを刻む波音に琉海の砂を踏む微かな音が混じる。
海と満月を背にして彼は待っていた。
琉海は立ち止まるとまっすぐにその瞳を見上げた。
「海男……いや、真人」
真人は何も言わずただ黙って琉海を見つめた。
「あなたが陸の王子だったんだ」
琉海が人間になって陸に上がった最初の日。
それを待っていたかのように現れた真人。
「でも、どうして?人魚のふりを?」
——僕は人魚だよ。
「うそ、海男は人間でしょ、陸の王子なんだから」
——正確に言えば、僕は人間から人魚になった。
真人はゆっくりと語り始めた。
僕が琉海に初めて会ったのはまだ僕が少年だった頃。
家族で海辺の別荘に遊びに来た夏のあの日、岩陰で釣り糸に絡まってもがいている女の子を見つけた。
真っ白な肌に桜貝のような唇。
目は蒼い大きな宝石が入ってるかのようだった。
腰まで伸びる銀色の髪。
そしてその先に虹色の尾っぽがついていた。
その女の子は人間じゃなかった。
その子は人魚だった。
僕はたまたまポケットに持っていた携帯用のハサミで釣り糸を切ってあげた。
ひどく怯えたその子はあっという間に水の中へと逃げていってしまった。
あとから思えばあの時弟の自由の女神のかぶり物を頭につけてたりしたから余計怖がらせてしまったのかも知れない。
そしてもう1つ。
あの日あの岩場の先で遊んでいた1人の男の子が波に呑まれて亡くなった。
僕が行こうとしていた場所だった。
もしあの時あの子に遭遇していなかったら、僕もその死んだ男の子と同じように波に呑まれていたかも知れない。
僕はあれからそのまま浜辺に引き返したから。
僕があの子を助けた以上にあの子は僕の命を救ってくれたんだ。
あの子としゃべってみたかった、ちょっとでいいから。
ずっとそんなことを思っていた。
規則正しくリズムを刻む波音に琉海の砂を踏む微かな音が混じる。
海と満月を背にして彼は待っていた。
琉海は立ち止まるとまっすぐにその瞳を見上げた。
「海男……いや、真人」
真人は何も言わずただ黙って琉海を見つめた。
「あなたが陸の王子だったんだ」
琉海が人間になって陸に上がった最初の日。
それを待っていたかのように現れた真人。
「でも、どうして?人魚のふりを?」
——僕は人魚だよ。
「うそ、海男は人間でしょ、陸の王子なんだから」
——正確に言えば、僕は人間から人魚になった。
真人はゆっくりと語り始めた。
僕が琉海に初めて会ったのはまだ僕が少年だった頃。
家族で海辺の別荘に遊びに来た夏のあの日、岩陰で釣り糸に絡まってもがいている女の子を見つけた。
真っ白な肌に桜貝のような唇。
目は蒼い大きな宝石が入ってるかのようだった。
腰まで伸びる銀色の髪。
そしてその先に虹色の尾っぽがついていた。
その女の子は人間じゃなかった。
その子は人魚だった。
僕はたまたまポケットに持っていた携帯用のハサミで釣り糸を切ってあげた。
ひどく怯えたその子はあっという間に水の中へと逃げていってしまった。
あとから思えばあの時弟の自由の女神のかぶり物を頭につけてたりしたから余計怖がらせてしまったのかも知れない。
そしてもう1つ。
あの日あの岩場の先で遊んでいた1人の男の子が波に呑まれて亡くなった。
僕が行こうとしていた場所だった。
もしあの時あの子に遭遇していなかったら、僕もその死んだ男の子と同じように波に呑まれていたかも知れない。
僕はあれからそのまま浜辺に引き返したから。
僕があの子を助けた以上にあの子は僕の命を救ってくれたんだ。
あの子としゃべってみたかった、ちょっとでいいから。
ずっとそんなことを思っていた。