人魚姫
『わたしは魔女ですよ。人間を人魚に、人魚を人間にすることぐらい簡単です』

 魔女はその時どこか遠くを見ながら、とても寂しそうな顔をした。

 そして僕は自ら海へと身を投じた。

 光の届かない海の底で僕の体はゆっくりと人魚へと変化していった。

 でも僕が陸の王子だったからだろうか。 

 僕は人魚に変化するのにひどく時間がかかった。

 通常なら数日で変化するところを、僕は1ヶ月間も眠ったままだった。

 そして僕が目覚めたとき、琉海、君は人間になるために眠っていた。

 僕たちの運命の糸はこのへんから掛け違えてしまったのかもしれないね。

 陸の王子がいない陸に上がった琉海はどうなるのか?

 僕は深海の魔女に訊いた。

 魔女は言ったよ。

『陸の王子を見つけられなかった姫は1年後に死にます』と。

 また人間に戻して欲しいと僕は深海の魔女に頼んだ。 

 魔女は長いこと黙っていたがやがて言った。

『いいでしょう。でもあなたはそれによって多くのものを失います。もし伝説の海の姫の心を手にできなかった場合、全ての人魚がそうであるように陸に上がった後の寿命は1年間。他の人間になった人魚たちより副作用がひどく出ます。肌が水に触れると叫びたくなるような激痛が走るでしょう。そしてそれに効く薬はありません。できた傷を癒す薬のみでしたら人間界にそれをくれる医者がいます。そして、あなたは自らが陸の王子であることを姫に名乗ってはいけません。そのためにあなたはあなたの声を失うでしょう。それでもいいのですか?』

 僕に迷いはなかった。

 こうして僕はまた人間に戻った。

 琉海、君を追いかけて。


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