人魚姫
残酷な結果
人魚はとても記憶力がいい。
特に琉海の記憶力は姉たちとは比べ物にならないもので、琉海は集中さえすれば1度覚えたことは忘れなかった。
琉海の前の姫も同じだったというから、それは伝説の姫が持つ容姿以外の姫である証なのかも知れない。
人間の男を虜にし世界をひっくり返すぐらいのことができる人魚なのだからそれくらいの特殊能力があってもいいだろう。
琉海はテレビに夢中になった。
ドラマにお笑い、ニュースにショッピングチャンネルと、時間が経つのを忘れてテレビを見入った。
テレビからはたくさんのことを学ぶことができた。
『それでは今日は大人も子どももみんな大好き、鶏の唐揚げを作っていきましょう』
画面の中で白いエプロンをした男女が笑顔で料理を始めた。
ぐう〜と琉海のお腹が鳴った。
「肉!」
琉海は叫んだ。
『それでは一旦この肉を冷蔵庫に入れて味を染み込ませます』
「肉、肉、肉」
琉海はキッチンに行くと冷蔵庫の扉を開けた。
眩しいくらい明るい光が琉海の顔を照らす。
「肉、肉、肉」
中に入っている物ひとつひとつを手に取る。
食べかけのチョコレートバー、プリン、みたらし団子、ピーナツバターの瓶、コーラと冷蔵庫の中に入っているのは甘いものばかりだった。
「なんだぁ、肉ないじゃん」
琉海は口を尖らせたがお腹が空いていたのでとりあえず手当たり次第口に放り込んだ。
甘いものは嫌いではないが、だんだんと胸焼けがしてくる。
口の中が砂糖で溶けてしまったかのようにぬめって気持ち悪い。
「おぇ〜。肉が食べたいよぉ」
琉海は手に持った食べかけのドーナツを放り投げた。
そのドーナツを犬が咥えた。
「あれ?あんた」
犬はドーナツをあっという間に呑み込み、黒い小さな瞳でもっとと言うように琉海にしっぽを振る。